日本の企業にとってマネジメントは永遠のテーマかもしれません。
日本人は生真面目で優等生になりやすい人種です。そのため、教科書通りの答えやマニュアルに沿った対応が多く見られます。その中でも、上司からの指示以外のことに目を配ることができない指示待ち部下が大勢います。そのような部下たちを上司はどのように積極的に、自発的な行動を起こせる部下に育てればいいのでしょう。
現在の日本社会では、「団塊世代」、「ゆとり世代」など生まれた時代によって区切られてしまうことが多いように思います。しかし、きっとどの時代でも「新人は使えない」、「若い者はやる気がない」と言われてきたものです。その中でも最近は「指示待ち部下」という言葉をよく耳にします。指示待ち部下とは文字通り、上司や周囲からの指示や言葉を受けるまで仕事をすることができず、指示以上のことを行えない部下のことを言います。指示待ち部下にとっては、上司からの指示がすべてであり、それ以上のことをする必要性を感じていないことが原因と考えられます。また、日本の教育は「正解が正しい」、「悪いことは禁止」というマニュアルや教科書のとおりに教える傾向があります。そのため、柔軟性や臨機応変な対応に欠けるところがあるのではないでしょうか。
指示通りに仕事をこなすことは、悪いことではありません。
簡単な例として、「この冊子をコピーしてくれ」と言われたらコピーをします。ここで、コピーだけをして上司に渡すのは指示通りの仕事です。この仕事に加え、コピーした冊子を1部ずつに分けホチキスなどでまとめ、その書類を誰に配布するのか聞くなど次の動きに自分自身でつなげることが求められる仕事だと思います。
日本人は、このような心理を「優しさ」や「気配り」という言葉で表現しているかもしれません。指示待ちではなく、求められる仕事を行うためには、上司がどのような意味を込めて指示を出しているのか、上司はその指示を通して何をしてほしいのかを部下が自ら考えて行動することが必要です。
日本は礼儀を大切にする文化があるので、言葉遣いなど言動に配慮しながら見えない上下関係が築かれていることがあります。日本の企業の中でもそのような雰囲気があり、上司が偉く正しいもので、部下はそれに従うことが当たり前のようになっている場面も多いでしょう。そのため、上司の指示には応え、間違いを起こさないように部下は配慮しています。そういったことから、部下は上司に対して「余計なことはしない」、「失敗はしない」という、ある意味恐怖心のようなものがあるのかもしれません。
では、上司の指示に従うことが部下の仕事なのでしょうか。
私は新入社員の頃、初めての会社、初めての上司、初めての社会人生活などたくさんの初めてのことを目の前に緊張しながら出社していました。もちろん、仕事に関しては右も左もわからず、自分に与えられるものがなにかを必死で探す毎日です。
企業には、企業それぞれの方針や価値観があります。毎日与えられる仕事をすることでその企業の中でどんな仕事が必要なのか考えていきました。部下にとって上司は、お手本です。その上司が自分に仕事を与えてくれることが、会社での仕事になっていきます。そのため、いつしか「自分は上司の指示に従って動く」という気持ちが強くなっていきました。私自身、指示をもらうことを期待していたのです。
しかし、そんな自分も先輩になる時がきます。いざ、自分が上の立場になっていくと、部下への仕事の振り方がわかりませんでした。会社の中での立ち位置がわかっていない新人に、なにかを頼むことや教えることはとても難しいと気付き、同時に指示の内容だけでは、自分自身が成長できていないことを実感しました。
確かに上司の指示は大切です。しかし、その指示の中にどのような期待や意味が込められているのかまで把握することで初めて指示に従って動くことができるのです。
日本語は、さまざまな意味を持つ言語です。また、言い回しや表現の種類が多く、受け取り方によっては意味が異なる場合もあります。そこが日本語の面白さでありながら、難しさでもあります。
上司の指示はとても簡単な日本語です。しかし、その短い簡単な言葉の中には言葉以上の意味が隠されているかもしれません。
指示の中には雑用のような仕事もあります。しかし、その雑用も仕事の効率につながるかもしれません。
例えば、さまざまな場所や人へのおつかいで社内の場所や人の顔を覚えることができます。資料の整理や片付けでは資料の保管場所を知ることができます。指示の言葉だけでは、誰にでもできる仕事かもしれませんが、その誰にでもできる仕事を人より真剣に聞き、自分の知識に変えることができるのです。
部下にそのような積極性や貪欲さを持たせるためには、部下の着眼点を変えさせなければなりません。指示に従うことだけが仕事ではないことをしっかり自覚させるべきです。指示以上のことをだまって期待するのは難しいと思います。かといって指示を長くやってほしいことをすべて話すと説明されたことしかできなくなります。
そのため、部下に仕事を投げてしまう積極性が上司には必要かもしれません。指示ではなく、仕事のゴール・目標だけを渡し、仕事の過程を部下自身に考えさせます。わからないことを自分で聞きに行かせることも方法の一つです。小学校でも当たり前の問題解決能力ですが、大人になると、人に聞くことを恥ずかしいことだと考えてしまう傾向があります。そのため、失敗や能力不足を恐れ、人の言葉を頼ってしまうのです。
会社で仕事を任されることを嫌がる人は珍しいです。自分にできること、自分でできたことを実感することで自信を持ち、意欲的に仕事と向き合うきっかけになるかもしれません。
人は、自分自身が頑張ったことややり遂げたことを実感することで自信を持って行動できるようになります。子どもの頃はそれが大人に褒められて気付くようなものでした。しかし、社会人になった部下は、信用されることがなによりも嬉しいものです。「任せる」ことが信頼となり、間違いは指摘することで信頼できる上下関係を築くことができるでしょう。
上司にとっての「指示待ち部下」は、やる気のない消極的な若者かもしれません。しかし、若者がすべて消極的に指示を待っているわけではないと思います。指示を出す上司も、指示を待つ部下も悪気を持っているわけではありません。だからこそ、お互いの考え方を理解できないものなのです。上司は、部下に頼む指示ではなく、部下を試すような指示を行うべきです。過程がわからない仕事と向き合ったとき、どのように対処していくのか、部下の姿勢を見ることで本当のやる気が見えてくると思います。
マニュアル通りの教育ではなく、部下ひとりひとりと向き合いながら試していくことでなにか変わるかもしれません。