企業の事業主が派遣労働者を正規雇用として直接雇用し、キャリアアップなどを促進すると国から助成金がもらえるというシステムがあるのをご存知ですか?優秀で意欲的な人材を確保することは、生産性の向上につながります。雇用が安定し、事業主と非正規雇用の従業員双方にとってメリットとなるキャリアアップ助成金という制度があるのです。ここでは特に中小企業の事業主にとってはぜひ活用したいこのキャリアアップ助成金について詳しく見ていきたいと思います。
国では非正規雇用の従業員、つまり有期契約労働者や短時間労働者、派遣労働者を正社員に登用したり、人材育成の取り組みや処遇を改善する場合に、事業主である企業に対して助成金を出す制度があります。これを「キャリアアップ助成金」といい、平成29年4月よりさらに対象が増え、助成額も増えました。ではその内容を詳しく見てみましょう。以下で紹介するのは大企業ではなく中小企業向けの助成で、平成29年4月時点の内容となります。
【正社員化コース】
いわゆる有期契約労働者を正規雇用に転換したり、直接雇用にすることで1人あたり28万5,000円~の助成を受けられます。
【人材育成コース】
いわゆる有期契約労働者に一般職業訓練や有期実習型訓練を実施した場合、その訓練時間数に応じて賃金助成として1時間あたり760円~、訓練後に正規雇用に転換した場合は訓練時間に応じて10万円~の実費助成もあります。
【賃金規定等改正コース】
有期契約労働者の基本給を増額改定した場合、すべての賃金規定を2%以上増額すれば対象の労働者の人数によって9万5,000円~の助成が出ます。また、職種を特定した一部の賃金改定の場合は、2%以上の増額で4万7,500円~の助成をその対象人数によって申請することができます。
【健康診断制度コース】
有期契約労働者に対して法定外の健康診断を4人以上に実施した場合、1事業所あたり38万円の助成が出ます。
【賃金規定等共通化コース】
新たに正社員と共通の賃金規定を有期契約労働者に対しても適用した場合、1事業所あたり57万円の助成が出ます。
【諸手当制度共通化コース】
上の賃金と同様に諸手当に対して正社員と共通の制度を規定、適用した場合、1事業所あたり38万円の助成が出ます。
【選択的適用拡大導入時処遇改善コース】
労使合意に基づいて、社会保険の適用の拡大をし、新たに被保険者となった有期契約労働者の基本給を増額した場合、その増額割合に応じ1人あたり1万9,000円~9万5,000円の助成が受けられます。
【短時間労働者労働時間延長コース】
有期契約労働者の週の労働時間を5時間以上延長し、社会保険を適用した場合、1人あたり19万円の助成が出ます。
非正規雇用の社員は正規雇用に比べて雇用が安定しておらず、賃金も低く、能力開発のチャンスも少ないという課題があります。人材不足や雇用の不安定の問題からこのキャリアアップ助成金の制度が生まれました。非正規から正規雇用への転換だけではなく、処遇を改善したりキャリアアップを促進するための積極的な取り組みを助成金というかたちで推進するこの制度を利用することにより、どんな効果が得られるのでしょうか?
中小企業やベンチャー企業は人材の採用や育成にかかるコストの面で大手企業に比べて何かと不利な立場にあります。この助成金を活用すれば雇用の促進が大いに期待できます。
事業主にとっては有期契約労働者として働いていた社員の中から優秀でやる気のある人材を正社員として雇用することができます。そして、非正規雇用から正社員になることができた社員にとっては、雇用が安定することでさらに業務に対しての意欲が高まり、責任感も増します。
また、派遣会社への手数料という事業主にとっては大きな負担となっていたものにこの助成金を充てることもできます。派遣社員を正規雇用にすることで賞与などが発生し、従業員の年収は上がりますが、雇用主側は派遣の手数料を考えれば人件費は変わりません。
上記で紹介したキャリアアップ助成金の8つのコースにはそれぞれ細かい要件がありますのでよく確認をしましょう。人数の規定や1事業所あたりの支給限度額などとともに生産性の要件もあります。助成金を受給するためには事前にキャリアアップ計画の提出も必要となります。また、大企業の場合は中小企業に比べて助成金額が少ない部分もあります。
非正規雇用の社員を正規雇用にする場合、人材の直接雇用に対する制度を就業規則で規定していることや、6ヶ月以上の期間を継続して労働者派遣を受け入れていること、直接雇用後も6ヶ月分の賃金を支給していることなどが条件になります。
また、それぞれのコースの助成金を申請する際に加算要件がある場合もあります。例えば、賃金規定を増額改定した際に、「職務評価」を活用、実施した場合は1事業所あたり19万円の加算があります。正社員化コースでは母子家庭の母や父子家庭の父には加算があります。
さらに、助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年前に比べて6%以上伸びていることが証明できればこの助成金はさらに加算されます。生産性とは、雇用保険の被保険者の数を営業利益・人件費・減価償却費・動産・不動産賃貸料・租税公課などで割ったものです。詳しい計算方法は厚生労働省のホームページに算定の仕方が載っています。
キャリアアップ助成金を受給するためには雇用保険適用事業所であること、キャリアアップ管理者を置くこと、キャリアアップ計画を作成すること、各コースの対象労働者に対する賃金の支払い状況を書類で提出することなどが必要となります。キャリアアップ管理者とは、その事業所内で有期契約労働者などのキャリアアップに取り組む者として必要な知識と経験を持っている者なら事業主や役員でもなることができます。
この機会に就業規則の見直しや社員の働き方の改善や改革を進めませんか?社員のモチベーションが上がれば必ず生産性も向上します。キャリアアップ計画については作成例などを参考にすれば作ることができますので、厚生労働省発行のキャリアアップ助成金のパンフレットを参照して、この制度をどんどん活用しましょう。