企業が新しいオフィスに移転する時には様々なコストがかかりますが、旧オフィスを借りる前の状態に戻す「原状回復工事」もその1つです。これに関しては企業内の従業員だけで行うのはなかなか難しく、専門の業者の手を借りる場合が多いですが、そこには「工事区分」という基準があります。責任の所在を明確にする役割のあるこの基準は一体どういうものなのか検証していきます。
そもそも原状回復工事とはどのようなものかを考えていきます。企業が新オフィスに移転を決定した時、それまで業務を行っていた旧オフィスがオーナーから借りた物件であれば、入居する前の状態に戻しておかなければなりません(賃貸契約上、義務になっている場合もあります)。これは、今までいたところに新たに入居するオフィスなり個人なりが存在するかもしれないからです。オーナーとしては引き続きその物件で家賃収入を得たいのに、原状回復がされていない状態だと物件の価値が下がってしまいます。したがって、出ていく人は物件の価値をなるべく入居前と変わらないような状態に戻さなければならず、そのために「原状回復の工事」が必要となってくるのです。
工事は具体的に、フロアの床や壁紙の張り替えという大規模なものから、窓枠や天井の塗装、ブラインドの交換、補修クリーニング、電球の交換など細かいものまで、一つ一つきっちりチェックした上で行わなければなりません。実際は綺麗に見えても、家具などを動かしてみると驚くほど汚れていることもあるので、きちんと想定の上対応できるようにしておきたいものです。また、賃貸契約の際に交わした書類に、工事をすべき項目が明記されている場合もあるので、改めてその書類をチェックしておきましょう。
原状回復工事を行うに当たって、重要なポイントとなるのは「借り主はどこまで工事の責任を負うのか」いうことです。例えば、一般のアパートやマンションといった賃貸物件の場合、個人が住んでいる各部屋の工事や原状回復は借り主の責任となりますが、通路やエレベーター、階段、外壁、水道や電気設備といった部分の修繕は貸主(オーナー)が責任を負うべき範疇です。
これはそのままオフィス物件にも当てはまり、どの部分の原状回復(工事、修繕)を誰が行い、費用は誰が負担するのか、責任の所在を明確にする必要があります。そしてその基準の一つとなるのが「工事区分」なのです。区分はそれぞれ「A工事」「B工事」「C工事」という分かりやすい形になっています。これにより、原状回復工事の最中に万が一トラブルがあったとしても、工事区分を元に、比較的スムーズに問題を解決できます。
また、原状回復の工事の時に覚えておきたいもう一つの要素として「貸方基準」というものがあります。これは、借り主と貸し主(オーナー)、どちらが費用負担をするか、どちらが工事発注をするかという基準です。さきほどの賃貸アパート、マンションの例を想起すれば分かりやすいですが、個々のオフィスフロアに関しては借り主、共用部分においては貸し主が工事を発注し、その費用も請け負うのが一般的です。しかしながらこの貸方基準というものはオーナー側の自由な裁量で決められており、借り主にとって不利な条件である可能性や、そもそも貸方基準自体が存在しない、という場合もあります。誤った認識やあやふやな知識でいると後々深刻なトラブルに発展する危険性も高まります。この貸方基準はオフィス退去が決定したら、工事を始める前にすぐにオーナーに確認すると良いでしょう。
さて、原状回復工事の際に、責任を明確にする一つの基準である工事区分は具体的にどうなっているのか、解説していきましょう。
・A工事
まずA工事とは、工事業者の選定、費用負担ともにオーナーである貸し主側が行う部分です。具体的には物件において共同で使用される部分(通路や階段、エレベーター部分、入口部分)や、建物そのものの躯体(床や天井、壁や屋根)といったところになります。しかしながら、場合によっては後ほど説明するB工事区分に該当し、借り主側に責任が発生する場合もあるので念のため確認しておきましょう。
・B工事
B工事こそまさに、(オフィス移転を予定している)借り主たる企業が考慮にいれなければならない工事区分となります。オフィス入居時に、フロア内の扉や壁、天井、照明関係や空調設備を借り主の都合で変えるケースは多いですが、このケースと原状回復の際に行われる工事を全て含めたものがB工事となります。工事業者の選定などはオーナー側が行う場合が多く、思っていた以上に高い金額になる可能性もあるかもしれません。しかしこのB工事においては借り主側もある程度工事に干渉できたり、値段の交渉もできたりするので、積極的に働きかけましょう。
・C工事
C工事は工事業者の選定から値段交渉に至るまで、その全てを借り主側が行うものになっています。オフィスの内装や配線関係の工事が主なものであり、基本的に法律の範囲内であれば自由に工事ができます。C工事は新たに入居する時がメインとなりますが、原状回復も一部C工事で行えることがあります。オーナー側と協議の上(貸方基準を参考にするなど)、原状回復のどの部分においてC工事が可能なのかを確認するようにしましょう。
以上見てきたように退去予定のオフィスの原状回復工事は、オフィス移転作業の中で最もコストに気を配らなければならない項目です。原状回復は基本的にオーナーである貸し主側が主導権をにぎっているので、彼らとの意思疎通がうまく図れていないと、後々に予想していたよりもはるかに高い工事費用を請求されてしまう恐れがあります。A、B、Cといった工事区分を良く理解し、自分のオフィスに当てはめて良く考えた上で、トラブルが発生しないようスムーズに原状回復に関する一連の作業を終了させましょう。