企業の防災計画として目にすることが多い「BCP」は英語のBusiness Continuity Planの頭文字を取った略語で、「事業継続計画」のこと。主に大手企業の防災対策として導入されていましたが、2011年3月に起こった東日本大震災以降、中小企業においてもBCPは経営管理の一つとして浸透しています。東日本大震災以降も、日本各地で多くの大規模な自然災害が発生しています。いつ起こるかわからない災害、その被害を少しでも軽減できるよう、オフィスで備えるべき防災対策について紹介します。
“オフィスの防災対策を考えるとき、基本となるのは「事業所防災計画」の作成です。つまり、防災マニュアルを作成し、その内容に沿った防災対策を、実際に災害にあったときに適切に実施し、被害を最小限にとどめること。防災マニュアルの具体的な項目として以下のことがあげられます。
(1)従業員の安全を守る:安否確認のための連絡リストの作成
(2)災害時初動対応:災害が発生したとき取るべき行動、各責任者やグループ分けなど決めておく
(3)予防対策:備品の転倒防止、避難ルートの確保など事前に予防できる事柄を想定し、備える
(4)備蓄品管理:ヘルメットや懐中電灯、水や非常食など、防災グッズの確保と管理
(5)訓練の実施:災害を想定し、マニュアルに沿った行動をとる訓練の実施
(6)復旧への取り組み:事業再開への事前計画
BCP(事業所継続計画)が求める企業の防災対策とは、(1)から(5)までの一般的な防災対策に加え(6)の災害後の事業・業務の早期復旧を目指した内容が組み込まれます。例えば商品・サービスの供給、サプライチェーンの対策・対応など。事業の規模や内容によっては、その会社の復旧への取り組みが早急で適切なほど社会に大きく貢献します。
事務所や店舗の入っている建物が大規模な地震が発生した時に耐えられるかどうかは、防災対策を計画するにあたり、最初に知っておくべき重要事項です。いくら防災マニュアルを作り、オフィス家具を固定し、緊急時の対応体制を整えても、肝心の事務所が崩れてしまっては、防災対策を生かすことができない上に、防災対策の目的である”従業員の生命・安全を守る”ことが出来ません。最近のオフィス賃貸で優先される事柄は、家賃や立地よりも「耐震性」が重視されると言われています。今事務所の入っているビル、あるいはこれから移転を検討しているのであれば、「耐震性」について正確な情報を入手し、現在のオフィスビル(あるいは移転先のオフィスビル)が「新耐震基準」に適合しているかを確認しておきましょう。耐震基準法のターニングポイントは、1981年6月といわれています。政府が、それまでの耐震基準を強化し、「新耐震基準」に基準内容を改革したのがこの時期だからです。つまり、この時期以降に建てられたビルが新耐震基準に適合したビルとなります。
(または、旧耐震基準で建てられたビルで、新耐震基準をクリアするよう耐震補強工事がされているビル)
(1) 新耐震基準:
・震度6強から7に達する大規模な地震で倒壊・崩壊しないこと
・震度5強程度の中規模地震ではほとんど損傷しないこと
(2) 旧耐震基準:
・震度5程度で崩壊しないこと
オフィスビルの耐震性が確認できたら、働く現場である、オフィス内の家具の設置や避難時に十分なスペースが確保できているかなど、災害への備えとして、オフィスレイアウトが防災対策基準に適合しているかを確認する必要があります。各市町村では防災条例を定め、事業所にも安全が確保できる建物の構造や、レイアウトを規定しています。例えば、東京消防庁の事業防災計画では以下のような規定を示しています。
「オフィス家具類の転倒・落下 ・移動 防止対策」
家具、じゅう器その他の建物に備え付けられた物品の転倒、落下及び移動の防止のための措置に関する規定
(1) 廊下、通路などに避難の障害となる物が置かれていないか。
(2) オフィス家具類等の転倒防止措置をしているか。
(3) コピー機や自動販売機のような重量物の移動防止措置がされているか。
(4) 家具類の転倒・落下・移動により窓ガラスが割れることはないか。
高層階(10 階以上)では、大きくゆっくりした揺れにより、オフィス家具などが転倒や落下するといった危険があるとともに、コピー機や自動販売機のような重いものが大きく移動することが判明しています。これら重量物の移動によって、従業員が挟まれないようにすることも、安全を確保するという視点では大切です。
“東日本大震災をはじめとする、過去の大規模な震災では、電気、水道、ガスといったライフラインの切断、そして交通機関の麻痺が起こり、想定外の混乱を招きました。特にオフィスが集中する都心部では、多くの帰宅困難者が発生し、都市の災害に対する課題として、今後の取り組みが必然となっています。この様な事態に備えとして、オフィスでは災害発生後に従業員の命と安全を守るため、次のような資器材や非常物品等の準備が不可欠です。
(1)食料:(インスタント食品、栄養バーなど保存の効くもの) 3日分×従業員数
(3)飲料水:(1人3リットル) 3日分×従業員数
(4)寝具・防寒具:毛布や寝袋など
(5)非常用物品:ヘルメット、懐中電灯、ラジオ、拡声器、軍手、予備の電池など
(6)医療品:応急手当に必要な医薬品一式
(7)救助作業品:担架、バール、ハンマー、ジャッキ、ロープなど
(8)衛生用品:簡易トイレ、トイレットペーパー、アルコールティッシュ、タオルなど
これらの備蓄品は必要な箇所に設置します。例えば、毛布や防寒具、衛生用品などは倉庫やキャビネット等に保管しますが、ヘルメットなど緊急時にすぐ必要なものは従業員一人一人のデスク回りに設置します。そして飲料・食料など賞味期限のあるものはリストにしておくと、保存期間が一目でわかりスムーズな入れ替えが実行できます。
防災対策計画に盛り込むべき項目として緊急時の対応体制、指揮命令系統を事前にまとめ明確にしておくことが重要です。各部署やグループでの任務分担、従業員の安否確認のための連絡先一覧の作成など、災害時の社内対応をどのような方法で行うかを、チャートにまとめすべての従業員への周知をが必要です。
具体的な取り組みとして
(1)防災対策について、ミーテイングを定期的にもうける。
(2)防災訓練は年間スケジュールに組み込み、従業員への周知を徹底する。
(3)防災訓練は、実際に災害が発生したと想定し、防災用品を実際に着用、携帯するなど、実践的な内容で行う。
(4)情報入手のルートや方法を事前に確認し、適切なルールを設けておく。
(5)災害による負傷者に対する応急処置ができるよう、ファーストエイド講習など行っておくことが望ましい。
事業所に従業員以外の人、顧客や取引先などがいる場合を想定し、従業員以外の人々に関して安全確保が実施できる内容の訓練を行うことも重要です。例えば商店であれば、お客様の安全な避難誘導は最も重要な防災対策の項目になります。また、帰宅困難者へのオフィスの開放も防災対策に盛り込むことが行政より推奨されています。地域社会との連携を考慮した防災訓練を実施も備えとして必要となっています。
自然災害は地震に限らず、集中豪雨や強風なども交通機関の停滞を引き起こし帰宅困難な状況を引き起こします。また世界的規模で起こるテロの脅威にも無関心ではいられません。備えあれば憂いなし、従業員、あるいは地域の人々の安全を守るためにもオフィスの防災対策は日常の業務のひとつであることを認識しておきましょう。