「働き方の多様化」「ワークスタイルの変革」など、21世紀を迎えたころから新たな働き方が先進国をはじめとする各国で模索されています。「クリエイティブな働き方」もワークスタイル変革のひとつとして、日本でも多くの企業が導入を始めています。では、クリエイティブな働き方とは具体的にはどのようなものを指すのでしょうか。実際に、クリエイティブなワークシステムを導入した企業の実例を紹介したいと思います。
”クリエイティブ(criative)とは創造力を有することを意味します。クリエイティブという言葉がビジネスの場で使用される場合、広告やデザイン、映像音楽といった「モノや作品を作り出す」職場やそれらに従事するデザイナーに対して使われてきました。しかし、現在では、働き方の選択肢のひとつとして、「クリエイティブな働き方」が話題になっています。クリエイティブな働き方とは、どのようなものでしょうか。
<働き方の多様性とその背景>
現在、最も一般的な働き方は週5日のフルタイム勤務です。しかし皆が同じ労働形態を取らなければならないことに疑問を感じる人達が増えてきました。例えば、女性です。仕事と育児の両立、保育園待機児童問題は社会現象として大きく取り上げられることも多く、女性の労働環境は見直しが求められています。また、働き方の多様性の背景にはIT化という大きな変革が存在します。クラウドサービス、Webシステムの活用、そしてスマートフォンやタブレット等モバイル端末の発展は「どこにいても仕事ができる」状況を作り出しました。これらの新しい技術は「自由な働き方」を後押しする大きな要因となっています。
<働き方のパラダイムシフト>
人々の生活は歴史と共に変化します。働き方も同様で、1960年代は高度経済成長時代、モノの豊かさを追求しました。しかし、経済成長の先には、豊かさの飽和によるモノの価値の転換期が訪れます。1990年代は多さより種類と価値ある品を求めました。そして、2010年以降の現在、現代社会はモノよりコトの豊かさを求めています。”
リクルートホールディングスは人材派遣/就業支援を事業の柱として、人生のあらゆるステージでの、人と人との出会いをサポートする大手サービス企業。同社は各グループ企業の持株会社として経営面を手掛けています。そのリクルートが「働き方変革プロジェクト」を立ち上げたのは2015年。同社が導入したクリエイティブな働き方とは?
■「リモートワーク」の導入 場所にとらわれない働き方
リクルートホールディングスがリモートワークを新たな勤務方法として社内運用に踏み切った理由は、「個人の能力の発揮」を引き起こす方法と考えたから。育児や介護で時短勤務や在宅勤務を許可する企業は珍しくありませんが、そのような事情を持たない、全従業員を対象としてリモートワークを導入したことは画期的な経営改革として各メディアで取り上げられました。リモートワークとは、単に在宅勤務を指す言葉ではなく、自宅以外にもカフェや移動先、あるいは社内のフリーアドレスエリアで自身の裁量のもと業務を行うシステムのこと。従業員のライフステージや、従事する業務の状況に応じて、柔軟で自由な労働時間が費やせるので、通勤や無駄な会議の時間を削減でき、仕事の効率UPにつながると言われています。しかし、大きな課題として”さぼる”社員が出るのではないかという懸念がつきまといます。
タスク管理が出来るか否かがリモートワークを上手く活用する条件となります。社員には、一定期間の目標を定め、進捗を上司へレポートすることが課せられます。自律的なタスク管理、スケジューリングマネジメントが出来ない場合、出勤の必要性が上司から提言されることも。きちんとした対策が取られています。
常に新たな働き方を発信しているファーストリテイリングは、ユニクロやGUでお馴染みの今や日本を越え、世界のカジュアルブランドへと飛躍したアパレル企業です。同社が最近導入したクリエイティブな働き方とは、「週休3日制」の導入です。週末の他にもう1日休みが増えるなんて、羨ましい働き方に思えますが、その実態はどのようなものでしょうか。
■「週休3日制」を導入は、経営の課題を克服できるか
ファーストリティリングが新たな働き方の取り組みとして導入した週休3日制は、この直前の取り組みとして同社が行った「地域正社員制度」が大きく関係しています。実はこの地域正社員制度、安倍政権の成長戦略の一環として打ち出された「限定正社員制度」。ファーストリティリングは政治政策にいち早く対応したのです。そして同社が導入した週休3日制度を利用できるのは、この「地域正社員」(転勤のない社員)に限ります。
ファーストリテイリングは、店舗数の拡大、および大型化で慢性的な販売員不足という問題を抱えています。また、離職率の高さも人材雇用、教育といった費用がかさみ、経営を圧迫していました。つまり、人材の定着が同社の経営課題の一つ。週休3日制は魅力的な労働条件として新しい雇用につなげる目的で導入されました。週休3日制で増えた休日は、自己啓発のための教育や、リフレッシュのための趣味の時間、育児や介護など、社員ひとりひとり、使われ方は様々です。
“サイボウズ株式会社は1997年創業のソフトウェア開発会社。技術系出身の創設者により生み出されたベンチャー企業は現在では国内グループウェア市場のシェア上位を誇ります。同社に「働き方の変革」が求められたのは、離職率の上昇が大きな理由。2003年には28%に達した同社の離職率は、採用と教育にかかるコストを圧迫、経営効率の悪化改善を目指し、従業員が長く、そして生産性のある労働ができる環境を作ろうと働き方改革に取り組みました。
同社が取り組んだクリエイティブな働き方とはどのようなものでしょうか。
■ライフスタイルに合わせて選べる多彩な働き方
育児や介護だけはない、「選択型人事制度」と呼ばれる性別、年齢を問わず全ての社員が働き方を選べるシステムを導入しました。(以下は内容の一部です)
(1) 最長6年間の育児/介護休暇制度
(2) 短時間勤務、在宅勤務が可能
(3) 退職後6年間は復職できる
(4) 在職中も副業を認める
クリエイティブな働き方の導入に必要な、ツールとなるIT技術やモバイル端末の整備、および社内制度の変更は比較的容易に整えられるが、難しいのはそれを活用する場である「企業風土」を変えることであると、同社役員の言葉が添えられています。
クリエイティブな働き方とは、働くことに対する「新しい当たり前」を取り入れ、社員の働き易い環境を作ることがベースとなります。しかし、重要なのは、働き易いワークスタイルから、「価値ある何かを生み出す」ことが求められます。それは、画期的なアイデアが生まれ、新商品につながったり、社員の満足度から会社へのロイヤリティが高まり業績がアップするなど、企業にとってメリットになること。ここでは会社に貢献したくなるような、ユニークな働く制度を導入している企業を紹介します。
■Sansan株式会社(クラウド名刺管理サービス)
「どにーちょ」平日勤務と土日休日を交換できる制度。休日、リフレッシュのために旅行に出ても、人が多くかえって疲れてしまうとこがあります。そんな時、土日に働いて平日休めば、心の底からリラックスでき、休み明け、やる気モードで出社できそうです。
■株式会社スタートトゥディ(ZOZOTOWNなどのファッション通販サイト)
「ろくじろう」1日6時間の勤務時間を許可する制度。朝9時から昼休みなしで6時間働き、午後3時に退社できるシステム。チームの業務が終了していれば帰ることが出来ますが、他の社員に仕事が残っている場合はサポートしなくてはいけないのがルール。つまり、効率よく仕事をこなさなくてはならないため、業務に集中するようになります。また、チームワークの形成にも役立ち、コミュニケーション活性化につながります。
働く人の年齢、性別、それぞれのライフスタイルは様々です。自分にとって働き易い、そして良い結果を出せる働き方を選べる企業が増えています。クリエイティブな働き方とは、今までと違ったワークスタイルの中で、価値ある何かを生み出し、多くの人と分かち合うことができる、そんな理想の働き方ではないでしょうか。