ブラックバイト問題、大手広告代理店の社員の自殺など慢性的な長時間残業の蔓延が働く人間のメンタルに大きな悪影響を及ぼし、結果的に会社の評判も悪化する事例が最近増えています。従業員の労働環境問題はどの会社にとっても放置しておけば、業績にも大きな問題を及ぼしかねない問題として、対策は必須になりつつあるといえるでしょう。しかし残業減や従業員の環境及び満足度の改善と言ってもすぐにその対応策が思い浮かばない人もいるでしょう。そこで発想の転換で残業の削減など労働環境の改善に成功した実例3つを紹介します。
ノー残業デーはすでに多くの企業で取り組まれている、労働環境改善、そして残業削減のための施策の一つでしょう。大抵のノー残業デーは週の真ん中である水曜日に設けられることが多く、疲労が溜まりがちな週の真ん中で休息を取らせるというほかに、忙しくなりがちな月曜日、金曜日を避けるといった事情も窺い知れるものになっています。
しかし元々それほど忙しくない曜日をノー残業デーにしても、それほど残業削減効果がなく、むしろ他の曜日にしわ寄せが行って、総残業時間数は減ってないとの意見もありました。そこで、あえて忙しい月曜日をノー残業デーにして、全体的な残業時間も指揮改革で減少させることに成功したのが、日立物流ファインネクスト株式会社です。この会社では、最も週の中で忙しい月曜日で残業を減らさなければ意味が無いと考え、月曜日に残業を禁止し、いかに忙しい中で効率的に業務をこなしていくかということを社員に考えさせるようにしました。
忙しい月曜日を残業せずに仕事をこなせるようになったことで、結果的に他の曜日も業務の効率化さえすれば、早く帰ることができるという社員の意識が定着。ただ単に会社のルールで従業員に押し付けるのでなく、問題を解決しながら残業減に取り組むことで本当の意味での効率化に成功したのでしょう。また管理職から月曜の朝礼で告知をすることで、全員にしっかりと意識の共有を図っていることも、成功の要因の一つになっています。
日本の大手商社の一つに数えられる伊藤忠。企業としての賃金水準は非常に高く、ブラックどころか一般的には憧れの会社、ホワイト企業として有名な会社の一つです。しかし商社は海外とのやり取りが多いので、どうしても時差の関係で勤務が深夜に及ぶことが多くなり、深夜残業を行わなくてはいけない社員が多いことが問題になっていました。
そこで同社では労働環境の改善のために深夜残業を基本的には禁止し、どうしてもという場合のみ上司への申告制で行い、そのかわりに早朝出勤を奨励するというシステムを採用しました。早く帰ることで家族とのコミュニケーションを取り、ワークライフバランスを充実させるとともに、早朝勤務にも深夜残業と同様の割増賃金を支給することで社員の賃金的な不満を防いでいます。また早朝勤務は通勤ラッシュのピーク時と重ならないので、通勤時のストレスや肉体的な負担も少なくなり、電話やメールもあまり来ないため、仕事に集中しやすいというメリットも生まれています。更に早朝すぎて朝食が食べられないという声に答えて、会社が朝食を無料で提供するといったサービスも充実させています。この朝型勤務を導入した結果、22時以降の退勤はほぼ0%になり、対照的に8時以前の出社は社員の4割と大幅に増えました。
時間外勤務を見ても5~10%の削減に成功しており、ワークライフバランスを推し進める対策として大きな効果を挙げています。また同時に電気使用量や温暖化ガスの排出量も、約15%削減されており、地球環境に配慮した施策としても、かなり大きな効果を発揮したといえるでしょう。同社では今後は介護や育児で時間的な制限のある社員活用のための施策なども打ち出していく方針です。
最後は具体的な企業名は出ていませんが、Twitterで11月に話題になっていた労働環境の改善です。社員の慢性的な残業を防ぎ、人件費も一定上の金額になるのを防ぐために導入したというシステムが画期的でした。それは「予め賞与に最大限残業したときの賃金を上乗せし、残業すればするほど賞与から残業代が差し引かれる」という内容です。社員にとっては残業をしてもしなくても、支給される給与は各月最大限に残業した金額と同等になるため、それならば残業しないで勤務時間内に仕事を終わらせたくなるように仕向けたものになっています。
ここで注目をしておきたいのは、残業代を予め決まっている範囲内で満額支給している点です。この施策により残業代のためにダラダラ残る、いわゆる生活残業を防いでいます。周りが仕事をスピーディーにするのならば、生活残業のためにゆっくり仕事をしていた社員も、それにつられて必然的に仕事のスピードが早くなります。全員が早く帰るようになれば、会社としても光熱費を削減できますし、社員の健康管理にも大きく良い影響をあたえることでしょう。
「事実上みなし残業を支給して、残業しても給料を出さないシステムと一緒」という意見もありましたが、みなし残業を支給している企業は残業代を通常時給の1.25倍にしていない会社が多く、正当な賃金を支給しているとはいい難い面もありました。また、みなし残業制度にすると早く帰る社員に「まだ仕事をやっていけ」という無言の圧力が掛かることも多かったのですが、支給する給与額が同じでも「早く帰らなければ損だ」という意識をもたせたことで、全体の残業減につなげたようです。
業務を分散できれば一番いいのですが、現実にはそう簡単にもいかない企業ばかりです。しかしここで挙げた企業はまさに発想の転換で同じだけのパフォーマンスを発揮しながら、勤務時間を削減し、社員の意識の改革にも成功しています。社員への動機づけをいかに行うかが、労働環境の改善の成否を左右するのかもしれませんね。