会社を支える屋台骨などと評されることもある総務。その業務は非常に広汎です。労務・法務・経理・財務・人事・広報と、まさに八面六臂の仕事ぶりを求められるのが総務担当者です。社内外とのコミュニケーションも多い部署ですから、「いかにスムーズに業務を遂行するか」が重要なテーマとして突きつけられます。そこで以下では、「総務の仕事をスムーズにこなすために必要なこと」を大きく3つにわけて解説します。
総務と聞いて、どのような仕事を思い浮かべますか?
「備品・消耗品の管理」「秘書・受付業務」「福利厚生」「安全衛生」「健康管理」「会社行事の実施」「広報活動(ホームページ管理等)」「法務(リスクマネジメント等)」「渉外活動」「保安・防災業務」
ざっと挙げるだけでも、このように多岐に渡る仕事を受け持つのが総務です。小規模な会社では、さらに経理や人事を任されるケースもあります。
会社にはさまざまな部署と業務がありますが、これほど多彩な業務をこなさなければならない部署は総務以外にありません。しかも一つひとつの業務内容は決して簡単なものではなく、かなりの専門性を要求されるものばかりです。つまり、総務担当者とはゼネラリストでありかつスペシャリストでもあるわけです。
では、このようにきわめて広汎な総務の仕事をスムーズに進めるために大切なことは何でしょうか。まず大切なことは、「自分の職分を明確にする」ということです。上記したような多岐に渡る業務のすべてを1人の社員だけでこなすようなことはまずありません。ほとんど場合、複数の担当者またはグループで業務を分担することになります。特に、秘書業務、法務、経理、人事の4つは業務の遂行に専門知識と高いスキルが求められるので、他の業務と併行して担当するケースは多くなく、専属の社員が割り当てられるのが通例でしょう。
総務の一員として業務の全体に目配りできる視野を持つことは大切ですが、自分の担当分野以外に余計な口を挟む前に、まず目の前の自分の業務をきっちり完遂することが肝要です。そうすることで、業務の効率も上がり、時間や人的資源の浪費も抑えられます。
職分を明確にしたら、次は自分の受け持つ業務を迅速かつ正確にこなすことを目指しましょう。「早く、正確に」がすべての仕事で求められるテーマであることは言うまでもありません。ですが、総務の場合、経理・財務・法務・労務管理のように、企業活動を滞りなく遂行するために絶対に欠かせないきわめて重要な業務を受け持つことから、他部署よりもいっそう正確で早い仕事が求められているといえます。総務の業務は、例えるなら各部署に酸素と栄養を運ぶ血液のようなもの。総務の仕事が正確で早ければ、それだけ会社全体の活動も健全かつスムーズになります。
では、個々の総務担当者が業務をスムーズにこなすためには、どんな資質が求められるのでしょうか。欠かせないのは情報収集とコミュニケーションの能力です。
総務の仕事は「情報戦」です。備品管理など日々のルーティンワークも、法務や経理、人事といったスポット的に発生する重要な業務も、適切な初動のためにはとにかく関係する情報を集めることが欠かせません。
たとえば巨大なオフィスを抱える大企業を想像してみてください。備品の管理ひとつとっても、情報収集は大変な仕事です。広大なオフィスのすみずみまで目を行き届かせるのは至難ですが、だからといって、各部署から「インクが切れたから急いで補充して!」とお呼びがかかるまで待機するのはあまりにも受身に過ぎます。
現在使用されている備品の交換時期を正確に漏れなく記録し、次の交換時期の予測を立てておけば、急な発注依頼に焦ることも防げますし、余計な備品を仕入れるコストもカットできます。
コミュニケーション能力も、総務担当者に必要な資質です。「夫婦で農業を営んでいる」といったケースならともかく、一般に、現代社会における仕事とは「他者を相手に交渉し、契約したうえで互いに義務を履行し、権利を行使することで利益を上げる」という行動の繰り返しにすぎません。当然多くの「自分以外の人」との交わりがそこにはあります。
総務の場合、「同じ会社の社員を相手に黙々と仕事をする……」という裏方的イメージがつきまとっていますが、それは正しくありません。広報や渉外、株主総会などでは、社外の第三者との交わりは不可避であるうえ、それらの業務では総務担当者の仕事ぶりが企業の印象を左右するのです。
したがって、対人コミュニケーションの技術をしっかり身につけていれば、スムーズな業務遂行に大きく貢献してくれます。大きな会社では、コミュケーションの専門家を招き、定期的に研修を行う例もありますが、キャッシュに余裕のない中小企業ではそのようなコストをかけられない場合もあるでしょう。せめて総務部内では、コミュケーションの技術について一定の水準の知識を共有するように心がけましょう。総務部内でリーダー的立場にあるなら、「コミュニケーション・トレーナー」などの資格を取得して、同僚を指導できる技量を身につけるのも有用です。
総務担当者は、時に経営幹部から意見を求められる場合があります。たとえば法務で考えてみましょう。
合併のように重要な案件では、顧問弁護士の意見が力を持つことは言うまでもありません。しかし弁護士は顧問企業の社員ではないので、「現場の声」や「業界内の微妙な力関係」に疎い場合もあります。そのようなとき、総務担当者の本領が発揮されます。
法務的視点だけでなく、各部署からの声を集め、合併のメリットデメリットに影響を及ぼしうるあらゆる情報を集めるのはまさに総務の職分です。経営陣は総務から届いた「現場の声」を斟酌した上で重要な経営判断を下すことになりますから、総務の責任は重大です。当然、経営陣との密な接触が求められます。つまり、総務担当者は、経営陣と現場をつなぐパイプ役であるわけです。
総務が現場の声を必要十分に集めるには、日ごろから「顔と名前」を知られていることが大切です。社内イベントのような全社的業務では、率先して行動し、他部署の社員に自分の顔と名前を覚えてもらうよう努めましょう。
ただ、現場の意見を集めて経営陣に届けるというだけでは、総務の役割を十分に果たしているとはいえません。経営陣の下した経営判断が、社員の処遇に関わる内容だった場合で考えて見ましょう。その処遇がはたして適切な判断なのかを一歩引いた場所から観察できるのは総務担当者の醍醐味です。
平社員が直接経営陣に意見できる場面は大企業ではほとんどありませんが、中小企業では決してめずらしくありません。自分の意見に妥当性があると確信しているなら、経営陣に思い切って異論をぶつけてみましょう。柔軟な考えのできる経営者なら、採用するかどうかは別にしても、異論の提示をとがめることはないはずです。むしろ異なる視点からの意見が、より適切な経営判断を導き出せるヒントになることもあるので、「どんどん意見を寄せてくれ!」と胸襟を開く経営者も多くいます。
あなたの会社の職場環境や経営者のキャラクターを見極めたうえで、意見の提示を歓迎してくれる空気がそこにあるのなら、ぜひ積極的に行動してください。その結果、あなたの存在感が認められれば、「有能な総務担当者」と認知されることになります。その栄誉ある称号は、あなたの仕事に対して「あいつのやることだから間違いはないだろう。だから重箱の隅をつつくようなつまらない批判はしないでおこう」というある種の安心感を与えてくれるでしょう。それは日々の業務のスムーズな遂行に直結します。
ゼネラリストかつスペシャリストである総務の仕事は、業務の多様性ゆえに日々課題に追われているようなイメージがあります。ただ実際には、大企業なら業務が細分化されますし、こぢんまりとした会社ならそもそも業務の絶対量が少ないので、総務の負担も相対的に少なくなります。負担が一番大きいのは中規模の会社の総務でしょう。ご紹介したポイント等を参考にしながら、スムーズな業務の遂行に挑戦してみてください。