2017年1月より、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法の改定に伴い、各企業では職場内の妊娠、出産、育児等による、マタニティハラスメントと言われる嫌がらせを防止するための措置を求められています。では、このマタニティハラスメントとはどのようなものなのでしょうか。企業としての対応のあり方を考察していきます。
マタニティハラスメントとは、働く女性がその職場で妊娠、出産、育児に関して精神的・肉体的に受ける嫌がらせや、また事業主からの妊娠、出産、育児を理由として自主退職への誘導や解雇などの被害を受けるなど、不当な扱いを受けることを指します。通称マタハラと略します(以降マタハラ)。
マタハラは、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントに次いで被害が増えてきているハラスメントと言えます。2015年11月に発表された厚生労働省の調査結果では、正社員で5人に1人、派遣社員では2人に1人という高い比率となっています。マタハラは不快な思いをする本人だけでなく、流産や早産など、お腹の子にも影響を与えかねない危険が伴うのです。
マタハラは大きく2種類に分けられます。1つは制度等を利用するのを阻害されるかのような嫌がらせです。就業規則に定められている制度を利用することで、解雇や自主退職を促されているかのような発言をされたり、制度を利用していることによって同僚から継続的に嫌がらせを受けるといった、就業環境が害される状況になっていることがあります。
もう1つは働く女性が妊娠、出産したことによって、妊娠中、または小さな子供がいるといつ休むか分からないとか、妊娠したことを上司に報告した段階で自主退職を促されたり解雇を示唆したりするといった嫌がらせの被害を受けるといったことが挙げられます。
厚生労働省で発表されている休業の具体的な理由としては、女性労働者の妊娠、出産、妊娠中の検診やその他母子の健康管理措置、体調の変化による軽易な業務への転換、時間外労働や休日出勤、深夜残業をしない等があります。また、育児に関しては休業の他に所定労働時間の短縮措置や子のための看護休暇等が、主なものとして盛り込まれています。
そもそも「ハラスメント」とは、加害者がそのつもりがなくても、その発言や行動が被害者を不快にさせたり、不利益を与えられたりした時点で「ハラスメント」となります。これを労働者が一人で抱え込まずに会社に相談できる環境を整える必要があります。
では、改正前と後でどのように変わったのでしょうか。
改正前の男女雇用機会均等法と育児・介護休業法では、労働者の妊娠、出産、育児休業等を理由とする解雇や雇止め、契約更新回数の引き下げや退職、正社員を非正規社員とするような契約内容変更の強要、また降格や減給、昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行ったり、それまでの仕事をさせずに雑用ばかりを強要したりといった不利益取り扱いを行うことは禁じられていました。
2017年1月からの改正後では、解雇等の不利益取り扱い禁止に加えて、「上司、同僚が職場において、妊娠、出産、育児休業、介護休業等を理由とする就業環境を害する行為をすることがないよう防止措置を講じなければならない。」という内容が新規に追加されました。これは、事業主が妊娠、出産、育児休業等の制度の利用が適正にされ、職場の上司や同僚からの嫌がらせを防止することを法的に義務付けられたということになります。
マタハラが違法行為にあたるだけではなく、その防止措置を講じずにいること自体が違法行為にあたるとされたのです。これによって企業は本来就業規則に定められている妊娠、出産、育児休業等の制度を利用しやすくし、マタハラに対する対策を求められています。
マタハラ防止措置の対策の第一段階として、まず企業が妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントの内容の具体例と、こういったハラスメントがあってはならないことや、妊娠、出産、育児休業等の利用が可能であることを明確にすることが重要です。全従業員に対して周知徹底するよう促しましょう。
妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントが認められた際には厳正な処罰の対象となるという旨を就業規則として文書化し、規定することで制度をより利用しやすくなるような環境を整えることが必要です。それに伴い、マタハラの被害者の相談窓口を設置し、その相談内容と状況に対応できる人材を配置することで、労働者が相談しやすく、苦情等にも柔軟に対応できる環境を整備していくことも必要となります。マタハラだけではなく、セクハラやパワハラといった他のハラスメントとも複合的に発生することも視野に入れて、相談者の立場に立った窓口を作るのが望ましいでしょう。
相談窓口対応者は被害者、加害者双方の意見だけでなく、第三者の意見も聞いたうえで事情を把握して、事実確認を明確にしていきます。その際、非常に重要なのは相談者となる労働者のプライバシーをしっかりと保護することです。そのためには相談窓口の対応者に対しても研修等で必要な措置を講じる必要があります。状況が把握できた時点で被害者の職場の環境を改善し、制度が適切に利用できるよう職場への働きかけを行い、ハラスメントの加害者に対して就業規則に則った措置を適正に行う必要があります。これらは迅速に行われなければなりませんし、こういった事象が起こった場合は、再発防止策を講じていきましょう。定期的にマタハラに関わる研修等を行い、企業としての方針を従業員に周知していくのも大切です。
また、妊娠、出産、育児中の従業員の職場内での業務分担等を見直し、支障のないよう効率的に業務を進められる環境作りも重要です。
マタハラは3大ハラスメントの一つとして数えられるようになってきています。想像以上に被害者が多いことや女性労働者だけでなく男性労働者も被害者または加害者になりえるということを自覚することが、マタハラをなくす第一歩となります。職場の状況を良く知り、ハラスメントに苦しむ被害者をなくすよう努力していきましょう。