中小企業庁HPによる、『中小企業BCP策定運営指針~緊急事態を生き抜くために~』に記載されている「事業継続計画(BCP)」とは、『企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと』です。では、事業継続計画にはどのような特徴があり、具体的に企業はどのような方法や手段を取り決める必要があるのでしょう。
事業継続計画(BCP)が注目されたのは、企業が災害などの緊急事態に遭うリスクが高まっていることが理由として考えられます。従来、企業は緊急事態に備え、安全対策や防災計画を策定していましたが、事業継続計画はさらに事業の継続と早期復旧に対する計画を重視したものとなっています。
中小企業庁によると、事業継続計画には下記5つの特徴があげられます。
1.優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する
2.緊急時における中核事業の目標復旧時間を定めておく
3.緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客と予め協議しておく
4.事業拠点や生産設備、仕入品調達等の代替策を用意しておく
5.全ての従業員と事業継続についてコミュニケーションを図っておく
いくら緊急事態を想定していても、企業の操業率は下がります。しかし事業継続計画を策定しておくことで、緊急事態での損害を最小限に抑え、事業の復旧を迅速に行えるようになります。つまり、事業継続計画は一言で表すと、企業にとっての非常時対応マニュアルです。緊急事態に強い企業にしていくためには、事業継続計画は必要不可欠となります。では、企業は事業継続計画をどのように策定しているのでしょうか。
現在、企業に対して事業継続計画を義務づける法律などは存在しません。しかし、多くの企業で事業継続計画が注目されています。
企業が策定する事業継続計画には、大きく分けて2つのものがあります。それは、独自作成された事業継続計画と国際規格の認証を受けた事業継続計画です。企業の大半が自社独自に事業継続計画を作成しています。
企業が事業継続計画を導入する背景には、緊急事態時に考えられるさまざまなリスクの存在があります。それには、外的なものと内的なものが存在します。外的なリスクの代表として電力供給の不具合があげられます。電力会社で不具合が生じると突然の停電を余儀なくされ、企業が原因ではない業務停止となります。また、内的リスクには情報の流出やコンプライアンス違反など企業内での緊急事態時のトラブルが原因となり業務停止につながる場合があります。
現在でも、「防災対策をしているから事業継続計画はしなくてもいい」という考えを持つ企業も少なくありません。しかし、従来の防災対策は、事業継続計画の一部に値する自社が対象のものでしたが、事業継続計画は事業継続を目的としているため、他社も対象として考えられます。企業はつながりを持って動いています。言ってしまえば業務委託などにより事業構造の弱体化が進んでいます。緊急事態時に自社だけが無事なら事業が継続できるという場合は少ないのが現状です。そのために重要視されているのが、事業継続計画なのです。
日本では1995年の阪神淡路大震災を初めとし、大地震が現実のものとなっているほか、新型インフルエンザやテロ攻撃などさまざまな緊急事態が想定されています。
2011年に起きた東日本大震災は、多くの中小企業に大きな被害を与えました。そんな中でも事業継続計画を活かし、早期復旧を果たした企業があります。
ある建設業者を例にあげます。この企業では、1年前から事業継続計画を導入しており、従業員の安否確認メールの自動発信システムを導入していたため、震災翌日から復旧作業に向けた地域の被害調査に動き始めたそうです。その行動は、「建築業が被災すればすべての復旧が難しくなる。初動体制の確保が絶対」という強い企業の理念とそれを従業員に浸透させていた結果だと考えられます。
また、工場設備のある企業で重要な設備を安全に停止させ、二次災害を防ぐための行動を迅速に行い、最小限の損害に抑えた実例や、日頃から事業継続計画を意識し、従業員とのコミュニケーションを図っていた企業では、事業継続計画などのマニュアル書類を持っていない従業員たちが憶えていた緊急事態時のマニュアルに従い行動した実例がありました。
こうした実例から、事業継続計画は緊急事態時に適用されるものですが、日常の中で企業と従業員がその必要性を共有し、共通マニュアルとして持つべきものであることがわかります。
事業継続計画は企業にとってとても必要なものであることは確かですが、いざ導入するためには課題もあります。
平成20年に内閣府が大企業・中堅企業を対象に実施した『事業継続計画策定に係る課題等の状況』についてのアンケート結果によると、事業継続計画の問題・課題・未策定の理由という面で上位にあがっているものとして、「事業継続計画の策定に必要なノウハウ・スキルがない」、また「事業継続計画の内容に関する情報が不足している」という2つが共通していました。
国際規格の認証を受けて策定する方法では、事業継続計画の明確さを証明するための情報システムが存在しますが、現在では新たな国際規格の普及が考えられている状態であるため、企業独自で行うことがほとんどです。また、震災を通じ、事業継続計画の存在や適用実例などから企業にも事業継続計画の必要性を認知させることができている現在でも義務化はされておらず、導入に至らないケースが多いのが現実です。
上記の課題に対し、対応策が考えられています。まずは、各業界団体による事業継続計画のガイドラインの設置です。業種により中核となる事業が異なります。そのため、業界別に事業継続計画のガイドラインを設けることで、事業継続計画のノウハウやスキルを高め、策定に関する情報を広め、導入へとつなげる動きが見られています。
また、事業継続計画で重要な問題は、自社だけの事業継続計画ではないということです。自社だけではどうにもならない外的リスクにもきちんと目を向けるべきです。そのために、自家発電装置の導入や複数の通信手段の確保と訓練が対応案としてあがっています。緊急事態時の被害の大きさを想定しにくく、事業継続計画を検討できない企業でも「困らないためにできること」という安易な発想からアプローチしていくことも事業継続計画を考え始めるひとつの手段です。
さまざまな緊急事態が想定される現在こそ、企業にとって必要不可欠なものが事業継続計画だと考えます。企業はいくつものつながりを持って動いています。事業継続計画により、そんな企業同士が助け合い、最小限の損害と早期復旧を考えることが可能となります。
被害を想定できない緊急事態の時こそ、企業にとって大事な中核を守っていきたいものです。まずは自社が重要視しているものを守る術を考え、企業と従業員が共通の理念を抱くことで事業継続計画と向き合うのはいかがでしょうか。