IPO(株式上場)を達成するには、上場基準を満たすためにさまざまな準備が必要で、計画的に進めることが重要です。今回は、上場をスムーズに進めるためにやるタスクやスケジュールを解説します。IPOに必要な費用の目安や準備のポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
※2025年1月時点の情報です。
※あくまで一般的な内容であり、準備事項や必要費用は企業によって異なります。
IPO(株式上場)には証券取引所の審査が必要ですが、すぐに上場できるものではありません。上場審査には上場直前期2期間の監査法人による会計監査が必要なため、一般的には、少なくとも3年前後の準備期間がかかるとされます。監査契約の受託先を見つけるためにも、早期に準備を始めることが大切です。
IPOは、申請年を基準にして1期前の事業年度を「N-1期」(直前期)、2期前を「N-2期」(直前々期)、3期前を「N-3期」(直前々々期)として準備を進めていきます。それぞれの時期で実施するべきことは次の通りです。
N-3期(直前々々期)以前、つまり直前々期の期首以前には、IPOに向けた準備や体制構築を行う時期です。
事業計画は、上場審査にはもちろん、上場に向けて不可欠な監査法人や主幹事証券会社などのサポートを得るためにも必要になります。上場時を想定し、合理的な事業計画を策定します。
あわせて、事業計画の達成に必要な資金調達規模や方法、株主構成や持株比率などを計画する、資本政策の策定も必要です。
IPO審査に必要な上場直前期2期の会計監査を依頼する監査法人を選定します。近年はIPOを目指す企業の増加から、受託先が見つからないケースもあるため早めのアプローチが必要です。
IPOに向けた準備を進めるために、監査法人や公認会計士から企業の課題を抽出するショートレビュー(予備調査)を受けます。
IPOまでに改善が必要な課題を解決するために、プロジェクトチームを発足させます。上場に必要な社内規程の整備などもチームで行います。
IPOの支援を主に行う主幹事証券会社を選定します。
直前々期(N-2期)にやるべきことは、主に経営管理体制の整備です。
ショートレビューの結果をもとに、利益管理や業務管理、会計管理などの各種管理制度が適切に機能しているか、組織が法律に沿って運営されているかを見直します。
役員など特別利害関係者等との取引がある場合は、利益の操作や相反となる取引を防ぐため原則解消します。
合理的な理由のない関連会社や子会社は、効率的な企業運営や不適切取引の防止のため、清算や統廃合を行います。
不正会計を防止するために上場企業に義務付けられている、J-SOX(内部統制報告制度)への対応を行います。
直前期(N-1期)は、管理体制の運用を行いながら、上場審査の準備を行う時期です。
上場に向けて見直してきた経営管理体制を運用し、問題があれば速やかに改善を図ります。
株式の発行や株主名簿の管理を行う株式事務代行機関(信託銀行や証券事務代行会社)を選定します。
有価証券報告書など、上場にあたり開示が必要な資料の印刷や制作支援を行う証券印刷会社を選定します。IPOに対応できるのは、株式会社プロネクサス、宝印刷株式会社の2社です。
「新規上場申請のための有価証券報告書」(Ⅰの部・Ⅱの部)をはじめ、上場申請に必要な書類の準備に着手します。
IPOの準備がある程度進んだ時点で主幹事証券会社が実施する中間審査を受け、改善が必要な部分は見直します。
申請期には、主幹事証券会社の引受審査を受け、通過後に証券取引所の上場審査を受けます。
上場申請に向け、主幹事証券会社の審査部門が実施する審査です。申請書類の信頼性や企業の運営状況、内部統制などに問題がないかなどを調査します。引受審査に通過すれば、証券取引所の上場審査を受けられます。
証券取引所が行う審査では、2~3か月を要します。審査通過には、上場に必要な株主数や時価総額、純資産の額などの形式要件と、上場企業としての適格性を評価する実質審査基準の両方を満たす必要があります。
IPOには大きな費用がかかります。各種費用の概要と費用相場を紹介します。
IPO準備の段階で監査法人に依頼するショートレビューの費用の相場は、150万円~400万円です。工数や調査範囲によって費用が変わります。
監査法人による会計監査の費用は、1,000万円~2,000万円程度が相場です。
IPO準備における会計監査は、会計処理が適切に行われているかの評価に加え、IPO準備に関する指導やアドバイスも実施されます。上場申請までの直近2期における決算時の監査証明を取得するためにも必要です。
新規上場の審査には費用がかかります。上場審査料は市場区分ごとに設定されており、東京証券取引所の場合は下記の通りです。
プライム市場 | 400万円 |
スタンダード市場 | 300万円 |
グロース市場 | 200万円 |
出典:日本取引所グループ「上場料金」
新規上場にあたり、上場手数料がかかります。上場手数料も市場区分ごとの設定です。
プライム市場 | 1,500万円 |
スタンダード市場 | 800万円 |
グロース市場 | 100万円 |
出典:日本取引所グループ「上場料金」
上場後は、市場区分と上場時価総額に応じた年間上場料がかかります。
上場時価総額 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
50億円以下 | 96万円 | 72万円 | 48万円 |
50億円超~250億円以下 | 168万円 | 144万円 | 120万円 |
250億円超~500億円以下 | 240万円 | 216万円 | 192万円 |
500億円超~2,500億円以下 | 312万円 | 288万円 | 264万円 |
2,500億円超~5,000億円以下 | 384万円 | 360万円 | 336万円 |
5,000億円超 | 456万円 | 432万円 | 408万円 |
なお、上記の年間上場料に加え、適時開示情報閲覧サービス「TDnet」の利用料12万円が必要になります。
出典:日本取引所グループ「上場料金」
IPOにあたり株式公募を行う場合、主幹事証券会社および複数の証券会社に株式を買い取ってもらう「引受」が必要です。この際、公募総額の5~7%程度の引受手数料がかかります。
IPOに関して、主幹事証券会社とは別に専門のコンサルティング会社を利用することもあります。コンサルティング費用の相場は、500万円~2,000万円です。
上場申請書類の作成は、高度な専門知識を有する証券印刷会社への依頼が必要です。費用の相場は100万円程度です。
上場会社には、株主名簿の作成等や、株主総会における議決権および株式配当等の株主に付与される権利の処理などを行う、株式事務代行機関の設置が必要です。代行費用の相場は年間400万円程度です。
IPOに向けてやらなければならないことは多岐にわたります。準備業務をスムーズに進めるためのポイントを紹介します。
IPOを成功させる鍵は、各タスクの全体像を明確に理解することです。タスクの中から、重要なものや時間を要するものを早い段階で洗い出しておき、優先的に対応すると良いでしょう。
IPOは、主幹事証券会社、会計監査法人、法務顧問など専門家の協力を得て進めなければなりません。連携を密に取り、情報共有や進捗状況の把握に努めましょう。
また、財務部門、法務部門、広報部門、経営陣など関係部署が連携することも重要です。
関連法令や制度の改正などがあると、上場要件や必要な手続き、遵守事項の追加や変更が生じることがあります。最新の情報を確認し、常に対応できる体制を整えることが重要です。
IPOに向けてやるべきことは数多くあり、準備には少なくとも3年が必要です。申請年を基準に事業年度ごとのタスクを把握し、計画的に進めましょう。また、上場にあたり大きな経費がかかるため、資金の準備もあわせて行う必要があります。
IPOに不可欠な事業・経営計画の策定については、下記の記事で詳しく解説しています。
「中期経営計画の作り方|作成時の注意点や軌道に乗せるためのポイントも解説」
「事業ポートフォリオとは?メリットや作成方法、最適化のポイントを紹介」