職場には常に優秀なスタッフばかりがいるとは限りません。配慮の足りない言動で周囲を困らせる「問題児」と言われる人々によって、お取引先に迷惑をかけてしまうばかりか、同じ職場の社員の士気が下がり、労務問題に発展してしまう恐れもあります。今回は、職場の問題児が原因となって起きた3つの事例と、会社として行うべき問題児対策をご紹介します。
職場の問題児の代表格に「お局様」がいます。しかし、お局様の中には、長い経験と実績を積んだ事でその地位にいる女性も多く、必ずしも職場に迷惑をかける人とは限りません。もし、迷惑な振る舞いをするだけの女性がいれば、それは「お姫様」でしょう。
ある会社では、事務員は、山本さん(仮名)と、もう1人の先輩だけでした。その先輩は、自分の気に入った男性社員にしか話しかけず、仕事を指示されても「わからないから出来ない」などの幼稚な理由で、面倒な業務は一切やろうとしません。その結果、次々と山本さんに面倒な仕事ばかり回って来て、山本さんは定時で上がれる日がほとんどありません。先輩の普段の勤務態度を見ても、休憩時間は必ず30分以上遅れてデスクに戻ってきたり、上司のいる目の前で会社のパソコンからSNSにログインしたりと、非常識な言動が目立ちます。山本さんが何よりも腹立たしく感じるのは、この先輩のお姫様のような言動よりも、それに気づいていながら全く注意しない、周りの態度でした。そうかと思えば、山本さんが子どもの保育園から電話がかかって来て、5分席を外した際には、上司から物凄い剣幕で怒鳴られるのです。全く尊敬できない先輩女性の振る舞いと、それを何の対策もせず特別扱いする周りの態度に、山本さんは次第に仕事そのものにも嫌気が指すようになってしまいました。
中川さん(仮名)の元に半年前から入ってきた女性社員の前田さん(仮名)は、未経験の業務でも結果を残す優秀な人物で、今では中川さんの部署に欠かせない存在です。ところが、ある時期から前田さんは欠勤を繰り返すようになり、そのまま職場に出てくる事はなく、ついに退職してしまったのです。突然の退職に驚いた中川さんは、部内の社員に「仕事や人間関係で困った事はないですか?」とヒヤリングを実施しました。すると「前田さんの隣の席の男性社員が、前田さんに対して取った態度が、あまりにも酷かった」という意見が次々に出てきました。前田さんが異動してくるまでは、その業務はその男性社員だけが長い間行っていました。前田さんが異動初日の挨拶に訪れた際も、「業務の知識もない素人に教える事はない。」と冷たい言葉を浴びせ、業務の質問をした際に「わからないなら会社を辞めろ」と暴言を吐いた事も、1度ではなかったと言うのです。しかも、それらは全て中川さんの見えない所で半年間も続けられていました。そもそも、前田さんの異動の目的は、男性社員に他の業務を経験させる事で、部署と会社全体を良くしようという物でしたが、その部分が男性社員には説明されておらず、何も知らない前田さんに仕事を奪われたと誤解を与えてしまっていたのです。結果、会社は問題児に対して何も対策を講じなかったため、前田さんという優秀な人材を失う事になってしまいました。
橋本さん(仮名)の部下として、パートの女性が入ってきました。橋本さんの職場では、お客様のお茶出しは入社日の浅い社員が行うようになっており、橋本さんは早速パートの女性に、部長とそのお客様へお茶出しをお願いしました。夕方、部長に呼びだされた橋本さんは、ぞっとする話を部長から聞かされる事になります。パートの女性が出したお茶は、湯のみや茶托は水浸しで、お茶はほとんど透明で味がしなかったそうです。橋本さんは、「初めてのお茶出しできっと慌てたのだろう」と思い、軽く注意した所、パートの女性は怒って口を聞かなくなってしまい、女性の豹変ぶりに橋本さんは驚きました。さらに数日後、今度はお取引先の重役から「うちの社員が何かご迷惑になる事をしましたか?」と少し怒った口調で聞かれたのです。橋本さんには全く心当たりがありませんでしたが、詳しく聞くと、お取引先の営業担当者が橋本さんの会社を訪ねた際、呼び鈴を押すと件のパートの女性が出てきたそうです。その際、用件を伝えると女性から舌打ちをされたと言うのです。アポイント通りに尋ねた営業担当者には何の落ち度もなく、女性の舌打ちは、忙しい時に呼び鈴を押されて腹が立ったというとても幼稚な理由でした。そんな事件が何度も続き、いずれも重大な事件に発展する事はありませんでしたが、橋本さんはその問題児の女性に何も対策を取る事ができないまま、契約終了をただ待つしかありませんでした。
ケース1)やケース3)のように、1人の問題児だけを異例扱いするような職場では、隠蔽や裏工作を行いやすい空気を作ってしまいます。「離席が長いけど、あの人ならいつもの事だ」と放置している間に、会社のデータを持ち帰られているかもしれません。このように、特定の人物だけが許される空気を作らないためにも、パソコンや机の使用状況を確認するリストを作り、定期的な社内監査を実施すると良いでしょう。全社員と同等に扱う事で、問題となっている言動を問題児本人に自覚させる事ができます。勿論、問題児以外の社員も同じ監査を受ける事で、他の隠蔽や業務上の問題行動を発見し、抑制する効果にも繋がります。
また、ケース2)の前田さんは、「ケース1)」の山本さんのように、理解者のいない状況に強いストレスを感じていた事が予想されます。もしこのような状況に追い込まれた社員が心労で身体を壊し、「職場の人は見て見ぬふりをしていた」と訴えられた場合、社員の近親者や地域から受ける風評被害は、会社の経営に直接的なダメージを与えかねません。さらに、社員を退職させてしまうという事は、それまで育ててきた人材を失う事でもあり、その人物に投資した時間やお金は大きな損失となります。日頃から社員のストレスチェックを行い、追い込まれている状況を理解し、声掛けを行いましょう。
ケース3)は、この女性の問題行動が、常に上司の目の届かない場所で起きている事が大きな問題です。このような不用意な行動が多い社員は、常に目の届く所に配置しなくてはなりません。特に来客とのやり取りの内容は、必ず上司に報告するよう指示します。この時「上司に監視されている」と誤解を与えないためにも、なぜ報告する必要があるのか説明しておきましょう。
スタッフ同士で注意や相談ができない職場では、問題児の言動がトラブルに発展しやすくなります。
まずは、職場をそのような環境にしないための対策が必要です。
問題児を注意する際は、必ず直属の上司に相談します。他部署の人間が注意する場合も、問題児が上司の場合は、さらに上の役職に相談しましょう。この時、問題児の言動が、会社にとってどのように迷惑かをきちんと説明する事がポイントです。ケース1)なら、「就業時間中の離席が多く、緊急時に対応が遅れて○○社に迷惑をかけた。」ケース2)なら「男性社員が、前田さんの質問に答えないため、前田さんが△△の業務を行えず、全員の業務にも支障が出ている。」など、具体的に伝えます。そして最後は、本人に会社から注意を与え、社員としてふさわしくない行動である事を、就業規則の該当する箇所を見せながら認識させます。
また、ケース2)のような、社員とマンツーマンで行うヒヤリングも効果的です。ヒヤリングは、定期的に行う事で相談しやすい空気を作ります。また、ヒヤリングが定期的に行われる会社では、社員は日頃の業務でも自身の振る舞いを意識するようになるため、ケース1)のような問題児自身に、自ら改善させるよう仕向ける効果があります。問題が起きた時の1度限りではなく、根気よく継続してヒヤリングの習慣を根付かせましょう。ただし、ヒヤリングの相談内容の真偽が見極めできるよう、普段から社員の言動をチェックしておく事も、合わせて心がけておかなくてはなりません。雑談や何気ない会話から入ってくる情報を、聞き逃さないようにしましょう。
問題児と呼ばれる人たちの行動は、同じ職場の社員の士気を下げるだけでなく、お取引先の信頼を失い、会社の経営にも損失を与えかねません。そのような事にならないためにも、職場を問題児の言動が注意できる環境として整備する必要があります。定期的な全社員へのヒヤリングや、直属の上司への相談、配置換えで問題児を上司の近くに座らせるなど、会社として様々な対策を講じましょう。