社会問題にもなっているブラック企業は、社員に過重労働を強いていながら、残業代をしっかり支給していない場合にそのように呼ばれます。しかし残業代を満額支給していても、月間80時間以上の残業が発生すると過労死の発生に因果関係があるものとして、職場の労働体制に指導が入る要因になります。社員の健康を守るためにも、また人件費を抑えるためにも残業の抑制は会社にとって考える必要のある事項です。そこで今回、社員の残業を削減することに成功した企業はどんなことをしているのかを紹介します。
大手商社として知られる伊藤忠では、現在原則20時以降の勤務を禁止し、社員の深夜残業の削減を行っています。一般的に商社というと24時間働き詰め、海外とのビジネスも頻繁にあるので深夜残業も当然というイメージを持つ人も多いでしょう。しかし伊藤忠では深夜型社員から朝型社員への転換を社長の主導で図っています。20時以降は原則禁止、22時以降は絶対禁止というルールを設けて、残業した場合はその理由を申告させるようにしています。そして朝早く出勤した場合に割増賃金を支給し、社員が早く来て早く帰ると言うスタイルを貫けるように支援しています。朝早くから仕事をするほうが、電話やメールが頻繁に入りその対応に時間を割かなければいけないこともなく、効率よく仕事を進めることができるのです。
早い時間に帰れるようなスタイルにすることで、夫と妻で子供の送り迎えを分担することもできるようになり、共稼ぎが増えている現代の夫婦のライフスタイルにも対応しています。また健康面を考えても深夜残業が続くと食事が遅くなり、メタボの要因にもなります。伊藤忠は朝7時から朝食の無料提供も行っており、朝食をしっかり取り早く帰って夕食も早めに取るように社員の健康増進への配慮もしていると言えるでしょう。
パナソニック電工では2008年からの3カ年計画で、社員の残業時間を大幅に削減することに成功しました。同社では社員一人あたりの勤務時間を3年間で150時間削減する計画を立て、その目標数値通りに見事達成をしました。
その成功を導いた大きな要因は、各期テーマを決めて問題を照らし出し、それぞれに有効な手段を打ち出していったことです。まず同社で行ったのが無駄な会議時間の削減です。会議を頻繁に行うことで会議に必要な資料に時間を取られる、会議も時間を定めずにダラダラ行うことで、冗長化が進み、決して有効に時間を使えているとはいえない状態だったのです。人数を絞り、時間を厳密に定めて毎月の会議時間を削減しました。その他にも出張夜営業、打ち合わせのための移動時間をテレビ会議やスカイプ、チャットなどを利用して削減。さらに次の期ではメール時間の削減と決めてメール作成のルール一本化したなどのテーマも設けて削減を行いました。更に資料を上で配布するものから、データにして格納するサーバに対してルールも定めるなど、社員それぞれの自由に行っていたいわゆる“暗黙の了解”を表面化し、社内で統一することで無駄をどんどん削減していきました。
目的を達成する貯めのステップを細かく踏んでいき、それぞれの問題を浮き彫りにすることで、根本的な問題に解決につなげたのです。
人材関係や出版、その他のサービスを手がけるリクルートでは2016年から全従業員を対象に、上限を定めないリモートワークの導入を決定しています。リモートワークとは、特に会社出勤しなくても、自宅で作業したり、カフェで仕事をしたりしてもいいというものです。これは同社で勤務する正社員、そして派遣社員にも適用された制度であり、同社が取り組んでいた「働き方変革プロジェクト」の一環となっています。リモートワークを行うことで、自宅という比較的ストレスの少ない状態で仕事に取り組めるようになります。また日によってオフィスを変えられるので気分転換にもなりますし、何より一日数時間を費やしていた通勤時間をなくすことが出来ます。その分仕事をしてもよし、早めに終わった場合は余暇に使うことが出来ます。社員の会社による拘束時間を削減し、仕事に役立つようなインプットをするための時間に費やすという狙いもあります。
もちろん社外で作業をするので、業務に使うツールはセキュリティを施された会社支給のものを使う必要がありますし、仕事の成果はこれまでと同等に求められます。社員を会社が信じ、また会社の信頼に社員が応えられる会社だからこそ、これほどドラスティックな改革ができるのでしょうが、Yahoo!でも月5日まで出勤の必要がない勤務日を設けるなど、自宅作業を一般化することで、社員の労働時間削減や柔軟な働き方ができるようにすると行った取り組みは、多くの会社に広がりを見せつつあります。
建設コンサルタント大手であるパシフィックコンサルタンツも残業時間の大幅な削減に成功した企業の一つです。建設業界では深夜残業は状態化しており、それを減らそうという取り組みも全く起こってきませんでした。そこで各社員の残業時間を職場のボードに記載して皆で共有。誰の帰りが今遅くなっているのか、どこに仕事が集中しているのかを皆で認識することで、手の開いた社員がスマートに仕事の集中している社員の仕事を手伝えるようにしました。チーム内でヘルプサインを出せば、全員で仕事を行い、できるだけ公平で、かつ早めに仕事を終えられるようにしたのです。さらに残業を減らすことに成功し、かつ業績を同等に残せれば報奨金を出す制度も設けました。残業の中には忙しくて残る残業だけではなく、いわゆる「生活残業」と呼ばれる、生活費のためにゆっくり仕事を行い、成果は出さないのに残業代を得ようとする残業もあります。成果を出すこと、そして残業を減らすことに会社として給料面で優遇を行えば、生活の為の無駄な残業を減らすことも出来ます。そのために出社時に、メールで退社時間を予め宣言する、会議時間を減らす、まず17時に帰るという意識を上の人間が持って、実践するなどの取り組みも同時に行い、成果を出すことができたようです。
残業を減らすことで社員が余暇に使える時間を増やし、スキルアップの時間に割いたり、情報のインプット量を増やし、新たなるアイデアを生み出すヒントにするといった効果もあります。社員の離職率の低下や、仕事後のコミュニケーションの増加など見込め、残業を減らすだけで会社にとって非常に大きな効果があることが、再発見されています。