「健康経営銘柄2016の選定基準について」の中で、経済産業省は「健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営視点から考え、戦略的に実践すること。」と定義づけています。従業員の健康を維持していくことが会社の戦略になるとしているのです。では、具体的に健康経営の取り組みがどのようなものであるかを見ていきましょう。
誰でも健康でいることで毎日の生活に活気が出て、仕事もプライベートも意欲的に行動したいと願っています。健康経営とはその従業員個人の健康管理に投資することで、会社の将来的な業績や生産性を向上していこうという考え方です。近年では団塊世代の定年退職等から将来的に大幅な人口減少が予測されるため、従業員の健康保持・増進への配慮の必要性が高まっています。身体的な面だけではなく、精神的にも健康な状態を維持し続けられるような改善対策を会社ぐるみで行う必要があります。
大まかには従業員の食生活や飲酒、喫煙、メンタルなど従業員自身へのヒアリングなどでの対応や、労働時間が長すぎないか、職場の環境は適切かなど会社全体の取り組みとして改善していくといった方法が挙げられます。
過去には日本のデフレ経済の下で、企業側がコスト削減のために人員を減らし、長時間労働を強いたり、外食業界などで注目されたワン・オペレーションなどによって従業員の労働環境が悪化していきました。そのことにより、労働災害や自殺など、それに伴う裁判などのリスクが顕在化し、結果的に従業員は心身ともに健康を損なったり、企業側にはブラック企業などという烙印を押されることによってイメージが大幅に悪化しました。このように、企業の業績に大きく影響を及ぼすといったことが現在の健康経営という考え方の後押しとなったと考えられます。
こういったことを受けて、日本政府では「国民の健康寿命の延伸」として、2015年12月から一定以上の規模の企業にはストレスチェックが義務付けられています。経済産業省では東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」の選定を行っています。このように健康経営の取り組みを行っていくことで従業員の健康維持を基に、企業経営にも活力を与えていくという戦略の一つとして考えられているのです。
企業にとって、従業員は一人一人に経済価値を有しています。その価値を伸ばしていくには、企業が主体となって健康づくりの基盤を整えることが必要です。企業が全社的に健康維持・管理に取り組む姿勢は企業体制に表れ、従業員もそれに乗って積極的な健康づくりへの取り組みが見られるようになります。会社独自の運動に関わるイベントを開催する企業も増えてきており、従業員だけでなくその家族も参加できるように配慮するなど、参加しやすい体制を整備することも重要と言えます。さらに喫煙対策や適正な飲酒、精神面での不調対策などを講じることによって、従業員への健康を指導するなども効果的です。
また、長時間労働が脳心臓疾患の原因となることが厚生労働省などで発表されており、労働時間や働き方を見直し、長期休暇を取得しやすくしてリフレッシュするといったことで、心身ともに健康増進していくという取り組みもされています。この長時間労働や長期休暇取得に関しては、経営者や役員が改善策として対応し実践することで従業員の健康管理に結びつけています。
また法定健康診断を定期的に受けているかどうか、受けていない場合にはその従業員と上司にも罰則を設けることで受診率を上げているという事例もあります。従来は従業員の健康管理は各自に委ねられてきましたが、こうして取り組んでみると、企業側の判断が従業員にも大きく影響することが分かります。
経営者自ら従業員に健康維持・増進を勧めることによって管理職にも伝わり、全社的に共同で取り組めることが理解できます。健康維持管理に関して強化マイレージを作成して従業員のモチベーションを向上する企業や、長期休暇を取得することに手当をつける企業も出てきています。会社独自の効果的な方法を模索していくと良いでしょう。
経済産業省が発表した「健康経営銘柄2016」の中で、「企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へつながることが期待される」とされています。これは心身の健康状態が生産性を左右するということになり、従業員一人一人の生産性向上やコスト削減、企業のイメージ向上にもつながっています。こうした健康保持・増進の対策を講じることによって健康保険組合における一人当たりの医療費を減少することができるといった効果も得られています。
またメンタルヘルス対策に力を入れた企業では、復職に関しての制度を強化することによってメンタルヘルス不調での長期休業が3割減少したという報告もなされています。
「企業全体で従業員の健康を守るには?」で記述した労働時間の見直しや健康診断の受診を義務付けたり、長期休暇を取りやすくするなどの取り組みによって、将来的な疾病を未然に防止する、または早期発見するための健康指導が徹底された結果として、生活習慣病の予防となり、医療費が削減され、労働生産性の向上、業績や企業イメージの向上へとつながっていきます。
誰もが健康で長生きすることで高齢化するものの、国民の平均寿命が延びることで「生涯現役」を前提とした社会経済システムの再構築が必要であると、「健康経営銘柄2016」の中にも記述されています。平均寿命と健康寿命の差をなくすことが社会全体の生産性を上げることにつながると示唆しているのです。それは結果として公的医療費・介護費の減少に大きく貢献します。こうした取り組みを企業単位で行うことで、社会的に大きく良い影響を及ぼすことになります。
このように、従業員の健康状態を把握することは企業全体の状態を把握することになり、その時の状態によってどのような対策を講じればいいのかを検討することができます。企業が健康経営に取り組むことによって、将来的な会社の業績向上の一端を担うことになると言えます。