近年、労働者が仕事や職に対して強い不安や悩み、ストレスを抱えていることが社会的にも大きな問題として考えられるようになりました。そのため、労働者本人はもちろん、国や企業がメンタルヘルスについて考え、「メンタルヘルス対策」を実施するようになったのです。今では、「メンタルヘルス対策」を企業内の環境づくりの一つとして捉えることも珍しくありません。
では、実際どのような「メンタルヘルス対策」が行われているのでしょうか。
労働者のメンタルヘルスはどうして重要視されるのでしょうか。
日本の労働を世界と比較すると、「生真面目」、「休みが少ない」、「働き過ぎ」など労働者にとってマイナスな要素が多いように思えます。
そんな日本が労働者のメンタルヘルスについて施策したのは、昭和59年に初めて過労自殺労災が認定されたことがきっかけと言われています。その事実を受け、翌年である昭和60年に「メンタルヘルスケア企画運営委員会」が設置されました。これを皮切りにその後の日本では、年々労働安全衛生法の改正や精神障害の認定基準を定めるなど労働者の心の健康を保持、または増進させるための動きが活動的になっていきます。
しかし、そのような制定や改正を繰り返している現在でも、労働者の過労による休職や離職の言葉を耳にしてしまいます。では、労働者にとって働きやすい環境づくりとはどこにあるのでしょうか。
平成28年に国より通達された「ストレスチェック制度の施行を踏まえた当面のメンタルヘルス対策の推進について」では、企業内での労働者のストレスチェックの義務化やメンタルヘルスについての情報共有や研修を積極的に行う旨が記載されています。労働者のメンタルヘルス問題は国の対策だけではなく、労働者が在籍する企業ひとつひとつの対策が重要視されているのです。
企業が行うメンタルヘルス対策のためには、4つの視点からのケアが必要だと考えられています。
1.労働者自ら行うセルフケア
まずは、労働者自身が自分自身の精神面をしっかり理解することが大切です。労働によるストレスや疲労を悪化させないように、職場の環境を見直し、整えることで改善することができます。
2.職場の管理者によるラインケア
ラインケアは、職場の管理・監督者の目線で労働者のメンタルヘルスをチェックすることです。企業の管理・監督者が面談や相談に対応することで、労働者の気持ちを理解します。
3.企業内の保健スタッフによるケア
企業内での保健スタッフや精神・心療などの専門スタッフによるケアです。メンタルヘルスに対する専門スタッフからの支援や具体的な計画を伴う対策の提供を行うことが目的です。また、専門スタッフが管理することで、労働者のメンタルに関する個人情報を把握し、企業と労働者の意識を近づけることが可能になると考えられます。
4.企業外からのケア
これは、都道府県などの地域にあるメンタルヘルス対策支援センターなどが行うケアです。労働者への情報提供はもちろん、企業に対してのメンタルヘルス対策の情報を提供し、研修なども行います。企業のメンタルヘルスに対する意識を向上させるために、保健スタッフの教育研修や情報提供も行っています。
企業の規模や社員数などによってメンタルヘルス対策の規模も変わります。しかし、どの企業も労働者が働くことで動いています。その労働者にとって働きやすい、より良い環境をつくることが企業に求められています。
企業は労働者をどの程度把握すべきなのでしょうか。また、企業に対し労働者へのストレスチェック制度が義務化されている現在では、どのような項目が問題視されているのでしょうか。
ある企業では、仕事の効率性を最重視していました。そのため、個人が仕事をしやすい環境として個人のデスクを他者と遮断し、壁をつくるように仕事をしていました。そうすると、社内のコミュニケーションはほぼなくなり、仕事に支障をきたすミスが増え、離職率が上がってしまったという事例があります。労働者の目線では、仕事の効率性を上げることは、必ずしも一人で集中することではないということです。
このように企業と労働者では、価値観が異なっていることが多く、理解し合えていないことが少なくありません。そんな労働者のメンタルヘルスを保持するためには、企業と労働者自身の精神や考えを分かり合うことが必要となってきます。
ストレスチェックは、企業側、労働者側にとって大きな意味を持っています。
まず企業におけるストレスチェックのメリットは……
1.労働者のメンタルヘルスを管理、また不調を把握・防止できること
2.職場での問題点を理解し、改善策を検討できること
などがあげられます。労働者の変化に気付くことで、企業の効率性を上げ、プラス要素を増やすことになります。
また、労働者にとってのメリットは……
1.ストレスチェックによって自覚していない自身の状態を客観的に見られること
2.ストレスに対する対策や改善を第三者からもらえること
3.自身の生活環境や職場環境を見直すきっかけになること
などがあげられます。ストレスは自分自身の気付かないところで大きくなっている場合があり、自覚症状がない人ほどメンタルヘルス対策が必要だと考えられます。
ストレスチェックを行うことで、企業側と労働者側の2つの目線でメンタルヘルスと向き合うことができます。
「メンタルヘルス対策」は、労働者にとっての働きやすい環境づくりではなく、企業自体のあり方や価値観を見直すきっかけにもつながります。企業と労働者がコミュニケーションを取り、風通しの良い社内環境をつくることが代表的なメンタルヘルス対策ではないでしょうか。労働者のメンタルに問題があるという見方は少なくなっています。今こそ、日本企業の労働者に対する見方が変わるときなのではないでしょうか。