日本の総務は、組織内での雑務をすべて引き受ける「何でも屋」のイメージが強くあります。これが外資系企業などのグローバル企業ではファシリティマネジメントという概念があり、ジェネラルサービスやコーポレートサービスなどと呼ばれ、経営戦略にも直結する役割のあるポジションとなっています。日本の総務が「経営総務」となるために必要なことをご紹介していきます。
企業で採用された人材の中でも、特に優秀と言われる人材は営業部門や開発部門、マーケティング部門などに配属されることが多く、総務にも優秀な人材がいない訳ではないものの、配属されることは少ない部署であるといえます。現状の総務は、社内で社員を守るための受け皿的な部署としての役割になっていることもあり、なかなかキャリアには結びつきません。その業務の専門性は非常に高いにも関わらず、経営との間に遠く距離感があることは否定出来ないのが現状と言えます。
経営者は事業継続管理や新規事業の立ち上げなどを最優先とすることが多くなる一方で、オフィスの移転などの一大プロジェクトであってさえ、総務担当者から経営者に相談するタイミングを間違えれば、後回しにされがちになるケースも多くあります。
実際には、ファシリティマネジメントと称されるように、オフィス移転や再配置などで経営戦略となり得る専門的な案件も多くあるのです。総務には営業部門などと比較すると市場競争力がつきづらく、経営者がその重要性に気付きにくいところにも原因があります。バックオフィス部門が変われば経営活動の幅が大きくなり、企業全体の業績向上にも大きく貢献出来るということに、経営者がもっと意識を向けるべきであると言えます。
総務が「経営総務」へ変わっていくためにはどのようなことが必要かを見ていきます。
日本における総務のポジションは、前述したとおり「雑用係」、「何でも屋」となっているのに対して、グローバル企業では会社の設備を利用する全社員を対象に、ビジネスニーズとしてのサービスを提供する部署というスタンスが確立しています。
全社員が働く意欲を高める体制作りによって、経営戦略を図る部署として認識されているのです。
その大きな役割は二通りに分けられます。一つはオフィスの移転や新築など、不動産も含めたファシリティマネジメントとしての側面です。これは経営に直結する部分であり、動かす金額も大きくなります。オフィスの立地条件から広さ、規模、賃貸であれば物件の賃料交渉などの不動産業務に始まり、何をどこにレイアウトすればいいかというところからもう一歩踏み込んで、より戦略的にオフィス環境を造り込んでいきます。
また、重要機器の設備やIT設備などの業務を止めないための体制作りやメンテナンスも手掛けます。
ファシリティマネージャーはその責任者として、建設や設備、電気機器などの専門知識も必要とされています。会社内の設備で起こることについて全て掌握している立場にあり、解決策をいくつも持っているスペシャリストなのです。
もう一つは受付や郵便物の配送サービスなどから機器管理、備品管理の業務に加えて、中小企業などでは人事や広報、法務までが業務に含まれている点です。総務のプロとして組織が定常に動き続ける状態を維持していく運営管理と、それに伴ってコストをいかに削減していくかが最大の業務となっています。コストの削減額はそのまま利益の底上げにつながり、経営戦略に貢献していると言えます。
また、ファシリティマネジメントにおいて、より攻めの姿勢の戦略的な業務を担っている部署であり、それによって企業活動に幅が広がり、業績向上に影響することについても、経営者は認識する必要があります。
従来の「雑用係」や「何でも屋」という位置づけの総務から、「経営総務」として変わっていくためには、まず総務の社員全員がプロとしての意識を持つことも重要になってきます。昨今では、人事のC職として「CHRO」のポジションが出てきていますが、総務にもこのようなC職としての経営的視点と役割が確立されることで、バックオフィス部門の変革に伴って企業全体が変わり、「経営総務」として機能していくことにつながります。
日本企業の従来の総務は、営業部門や製造部門といったフロント部門と比較すると、コアな業務ではないという認識が持たれています。しかし、本来は社員のモチベーション向上や企業活動を活性化させる業務を担っており、業務を効率化させることから業績向上につながり、企業の経営戦略に深く関わる部署であると言えます。
グローバル企業では総務は専門職として認識されています。その認識の温度差とは裏腹に、日本の総務でも預かる金額は非常に大きく、その利活用や運用に関しては経営に大きな影響を与えます。そのため、総務部門の責任者が経営会議などに出席して、総務としての業務がどのように結果として数字に表れているかを発言し、議論する人材が必要となります。
しかし、日本の従来の総務では、総務に配属される社員は他部門での評価があまり高くない人材を配属させるというような風潮があり、人事異動が多いために総務のプロとしての人材育成がされにくい環境にあります。経営者は、経験値が必須となる総務の業務において人材育成を率先して行い、総務のプロとして育成していく必要性に気付く必要があります。
高度経済成長期の日本の企業では、オフィスの移転や新築、売買などの不動産業務を多く手掛けていたため、多額の費用がかかることから経営戦略の視点から考えて行動する必要があり、総務担当者は様々な経験を積んでプロとなっていました。バブル崩壊後には、特に不動産に関しては縮小の一途を辿り、業務内容も減って仕事の責任も小さくなったために総務のプロが育つ環境がなくなっています。
しかしながら、総務に配属された社員のプロ意識も不可欠になります。総務が会社の戦略を担って経営総務として機能する時に一番重要になるのは、総務で預かる多額の予算の利活用方法です。どこにコストをかけてどの部分のコスト削減をすべきか、企業の利益向上やその成長のための経費を管理し、その用途を戦略的に考えた業務を行うことが重要となってきます。
バックオフィス部門としての経営総務へと変わっていくことで、会社の有り様は大きく変わり、総務の貢献によって経営にも影響を与えていくことが分かります。経営者がそこに価値を見出し、その重要性に気付くことが求められています。