企業が利益をより効率的に生み出すために、オフィスを現在あるところから移転するというのはよくある手法です。移転にはあらかじめ綿密な計画を立てますが、特にオフィス内のレイアウトをどのような形にするか、というのは最も重点的に考えるべき事項と言えるでしょう。移転後にオフィス内が狭い、部署間で連絡が取りづらい、などという事が発生したら再構成に余分なコストと時間がかかるからです。今回は最近人気となっているオフィスレイアウトの傾向を考察することで、無駄な移転とならないための方法を探っていきます。
移転を機に、現在流行っているオフィスレイアウトの傾向を参考にして、それに近い形にする、という企業も多いのではないでしょうか。近年において、そのキーワードとなっているのは「オフィスの見える化」です。部署ごとに分けるのではなく、フロア全体を1つにまとめてどこにいても見渡しやすくすることで、従業員一人一人の管理が容易になります。
極端な例をいえば、複数の部署をすべてワンフロアにまとめてしまう方法があります。規模の小さい企業はもちろん、大企業に匹敵するようなところでも、フロアを広めにとって、思い切って部署を一つにまとめる傾向があるのです。
レイアウトを「オフィスの見える化」のコンセプトのもと組んでいくことにはどういった意味があるのでしょうか。まず考えられるのは、部署間のコミュニケーションを活発にするといった狙いがあります。フロアが見渡しやすくなるので、重要な連絡も行きわたりやすくなり、風通しが良くなります。
次に考えられるのは、業務効率を改善する、といった狙いです。時には異なる部署間で情報を共有しなければならないケースも発生しますが、その時に移動が面倒だと伝わりにくい部分もあります。ワンフロア化してしまう事でそうした難点を解決する狙いがあるのです。
次に、「見える化」を具現化するための具体的なレイアウトを考察していきましょう。
全体を見渡せるオフィスのレイアウトはコミュニケーションの円滑化、業務の効率化に多大な役割を果たします。しかし従業員の立場に立ってみると、あまりに見えすぎる状態というのは仕事のやりづらさ、さらにプライバシーの侵害につながる可能性もあります。見えすぎるあまりストレスを感じてしまい、日々の仕事の効率をダウンさせてしまう矛盾も発生しうるので、ある程度の「仕切り」は必要となってきます。
パネルやパーテーションといったものを積極的に活用することでこうした問題を解消できる場合があります。仕切りを高めに設定してしまうと「見える化」に逆行する可能性もあるので、ある程度の高さに抑えておくのがベターと言えます。
性質上、どうしても密室性を保持しなければならないところも存在します。役員室や会議室と言ったところがそれにあたり、企業の機密事項を保持するためにはやむをえない部分もあります。しかしそうした部屋においても、壁を全面ガラス張りにすることによって、可能な限り中の様子が分かるようにしておけば「見える化」のコンセプトに多少は合致していると言えるでしょう。
「見える化」が行われているのは、普通に業務を行う場所だけではありません。最近のオフィスレイアウトの傾向として、特定の部屋において「見える化」を積極的に具現化している企業もあります。
会議室は全社員を集めて朝礼などを行う場所、経営上の戦略会議などを行う場所として一般的ですが、その他にも期末ごとに開催される納会やパーティーなどを行うスペースとして利用する事も多くなっています。さらに、社外の人材を集めてセミナーを開催したり、学生に向けて就職説明会を実施する時にも利用できるなど、社外からの評判を上げるきっかけともなります。
仕事の合間にはリラックスタイムを取る人も多いことでしょう。そのために休憩室を用意している企業も多いですが、それをオープンスペースにすることで「見える化」を果たすことができます。オフィスの中心部に設置すれば、たとえ部署ごとに独立したレイアウトだったとしてもそこで不特定多数の人が交流でき、情報交換などが可能となります。それによって思わぬアイデア創出のきっかけとなる場合も多く、企業側としては休憩室の設置をレイアウトの中でも重要視する傾向にあります。
移転してみたら、レイアウトの失敗が多かった……。そういう事態にならないために、移転前にあらかじめどのようにするかの会議を重ねる事が重要です。この点において、近年はどういった傾向があるのでしょうか。
小規模の企業の場合、特にベンチャー企業などはトップの人間が積極的に陣頭指揮をとり、独断で行う場合もあるようです。あらかじめ従業員に知らせず、いわゆる「サプライズ演出」でレイアウトが決められる手法がとられます。
規模が大きくなってくると、総務部門を始めとして、営業部門やクリエイティブ部門など、各部門の精鋭たちが移転後のオフィスレイアウトに関してプロジェクトチームを組むことも最近の傾向になってきています。彼らが、それぞれ所属している部門の従業員にヒアリングを行い、どのようなレイアウトなら仕事がしやすいかを聞き取っていきそれを集約、定期的に会議を行うことによって、全従業員にとってベストと思われるレイアウトが生み出されていきます。企業の中には、50回近くの会議を重ねて、ようやく理想のオフィスレイアウトを完成させたという例もあるようです。
トップが単独で決定する場合も、精鋭たちによる合議制の場合も、全ては再配置による無駄な時間やコストの発生を防ぐために行われている対策と言えます。
たかが移転、されど移転。移転に際するオフィスレイアウトの決定は想像以上にエネルギーを使います。トップが独断で決定する場合もありますが、近年の傾向に沿って綿密な計画を立て、会社に不利益を発生させないようなレイアウトの決定が望まれます。