オフィス移転には「居抜き物件」というキーワードがあります。移転先として検討している物件に別の企業が入居していた過去があり、そこを新たに使用する場合、前の企業が使用していた内装をほぼそのままの状態で引き継ぐことを言います。移転において重要な要素となりうる「居抜き物件の利用」には果たしてどういったメリットがあり、そして注意する点にはどのようなものがあるのかを検証していきます。
オフィス移転にはかなりの時間、労力とコストがかかります。特に大きめのオフィス用家具の移動、再配置は手間のかかる作業となります。居抜き物件の利用はそうした数々の負担を少しでも軽くしたいと思った時に重宝します。
居抜き物件の利用には、当然ながら「その物件から退去する企業」と「これからその物件を利用する企業」の両者が存在します。通常であれば、退去する側としては今まで借りていたオフィスを借りる前の状態に戻す、いわゆる原状回復義務が発生し、これから利用する側としては新しく内装を施すオフィス改装工事を行わなければならず、こうした部分で様々な労力、コストが発生します。
しかしながら、両者の間で居抜き物件を利用するという契約が成立すれば、お互いにこうした「義務の履行」や「内装工事を行う」という手間が省け、結果的に工事費を始めとしたコスト削減につながる可能性も高くなるのです。
退去する側はこれまで利用していたオフィス用家具などを廃棄せずに済み、これから入居する側はそれを再利用することで新規購入する手間が省け、デスクを再配置する程度の作業だけで比較的早い段階で仕事を再開することが可能になります。居抜き物件の利用にはこうした大きなメリットが考えられるのです。
オフィスの移転を検討している企業にとって、様々なメリットの考えられる居抜き物件の利用ですが、実は現代日本においてこの方法はまだあまり浸透していない、という現状があります。
飲食店や美容室などの、いわゆる小規模な「店舗型」物件においては盛んに行われており、一般的にすらなっている一方で、大企業はもちろん、中小企業間におけるオフィスの居抜き物件の利用は、需要は多いものの実際に成立に至るケースはまだまだ少ない、という現状となっているのです。こうした事態が起こっている原因として考えられることは何なのでしょうか。
まずは、企業ごとに規模は様々なので、従業員数の違いによってマッチングできる機会が少ない、ということがあげられます。居抜き物件を見つけても、狭すぎて従業員が入りきらない、などというケースもあるのです。そして退去する側、これから入居する側双方の立場ではメリットが多くても、物件を貸すオーナー側にとっては居抜き物件で得るメリットがほとんどない、ということもあげられます。
あくまで企業側だけで話が進むので、物件のオーナーにとっては借り主が変わるだけであり、また移転後に余計なトラブルが発生する可能性もあるので、「損多くて得無し」な現状となっているのです。
居抜き物件を利用する際には、他にも様々な注意点があります。以下を見ていきましょう。
最初にしておくべきことは、あらかじめ移転先の物件の様子をリサーチしておくことです。居抜き物件を利用する、という所まで交渉が成立したとしても、基本的に前の企業が利用していた室内の構成は動かしがたい部分もあるので、移転先が極端に狭かったり、意にそぐわないオフィス家具があった場合変更がしづらく、レイアウトの再構成を余儀なくされることもあります。かからないはずだった余分な手間やコストが発生し、居抜き物件のメリットをフルに活かせなくなってしまうので注意が必要となります。
次の重要なポイントは、なぜそこの物件が居抜きになったか、前の企業の退去理由を知ることです。移転してみたら、当時は気づかなかったが実は壁に大きな穴が開いていた、給湯室でお湯の出が悪いなど、本来なら前の企業の責任のものが移転後は権利も移り、自分たちの責任になってしまうので、最悪の場合こちら側が物件のオーナーに修理費を出さなければいけないケースも発生します。前にその物件を使っていた企業の使用年数が長く、単純に設備の老朽化が原因という場合もありますが、結果的に余分なコストを負わなければならないことには変わりないので、退去理由についてヒアリングを行い、責任の所在をはっきりさせておくなど、よくリサーチしておきましょう。
以上のようなメリットやデメリット、そして注意点を踏まえたうえで、企業としてオフィス移転の計画が俎上に上がった時、コスト面や労力の面でプラスになりうる居抜き物件を利用しようと思ったら、どのような探し方をすれば良いのでしょうか。
まず留意すべきは、居抜きを出している物件自体が非常に少ないので、それを条件としても見つかりにくいケースが多いということです。普通に賃貸物件を探す中で同じ業種のテナントを見つけることを優先し、そこから居抜きの予定がある物件がないかを確認する、という方法があります。解約予定の物件が見つかって、その後の交渉がスムーズに進む場合も多いです。
また、物件が少ないために、優良な物件はすぐに契約済みになる可能性が高いので、スピード感を意識しましょう。最新情報が常に更新されている場合も多いインターネットを駆使するのも1つの手段です。専門サイトでは居抜き物件に特化して検索できるものもあるので、積極的に利用してみましょう。
そして実際に契約交渉に入る時には、仲介業者に依頼するようにしましょう。1,000件以上もの居抜き物件を扱うプロの業者も存在するので、彼らにまかせておけば交渉もスムーズに進みます。
前の企業が使っていた物件=居抜き物件を再利用するという手法は、飲食業界などでは一般的なものとなっていますが、日本全体としてはまだ浸透しきっていない現状があります。様々な制約、問題があるからですが、退去する側、これから入居する側、双方にとってコスト面などから様々なメリットのある居抜き物件の利用は、特殊な事情さえクリアできれば結果的に仕事面において大きな利益が望める手法と言えます。