企業が利益追求を行おうとする時に、大前提の条件として考えるべきなのが「物件選び」です。いくら業務内容が大幅な利益を見込める、魅力あるものだったとしても、立地条件が悪いと100%の効果を得られない場合もあります。今回は特に、従業員の目線で見た通勤時間と仕事効率の関係、そしてそれを鑑みた企業による物件選びの方法を模索していきます。
一般的に、日本人がオフィスにたどり着くまでに要する通勤時間は、アメリカ人の2倍以上とも言われています。何かの行動(ここでは通勤に要する時間)によって見過ごしてしまった機会に発生する費用、すなわち「機会費用」は年間100万円に達する場合もあるのです。これを言い換えれば、年間100万円かけないと現在の所得を達成することができない、ということにもなります(実際にかかる費用ではなく、あくまでも理論上の数値として)。必要以上に多い通勤時間のせいでこうした事態が起こってしまう、とも言えます。
通勤にかかる時間は理論的に従業員の所得に少なからず影響を及ぼしていますが、これは当然ながら企業側の目線でも似たようなことが言えます。すなわち、生産面においてマイナスの影響を与えているのです。あまりにも遠い場所に自宅のある従業員は、まず睡眠時間が削られてしまうという問題があります。あるデータでは、通勤時間が10分程度の人の平均睡眠時間が6時間くらいなのに対し、100分以上の通勤時間がかかる人は5時間くらいと、その差になんと60分もの開きがあるのです。これは、長い時間をかけて帰宅しても食事や入浴などに時間を割かねばならず、その結果就寝の時間が夜遅くにずれこんでしまう、という事情があります。睡眠不足のまま翌朝の電車に乗り込んでも満員電車などでさらに疲れやストレスを溜め、オフィスで席に着くころには疲労が蓄積してしまっているのです。これが毎日繰り返されると、健康に悪影響を与える可能性も否定できません。
オフィスの近くに住んでいる人でも、満員電車という問題が同様に存在します。体力面におけるマイナスが考えられ、その結果全体として業務への取り組み(生産性)が多少なりとも落ち込んでしまう可能性があるのです。現在では「働き方改革」というものが進んでおり、在宅勤務の可能性やフレックスタイム制に代表される柔軟な勤務時間体制の確立など、企業側としても従業員の通勤に関する負担を少しでも減らす努力がなされていますが、まだまだ社会全体に浸透しているとは言い難く、今後の課題となっています。
企業が新規開業やオフィス移転などの計画を立案、新たな拠点である物件を探す時に、従業員の通勤コストという機会費用を可能な限り抑えるのは、無駄な時間をなくし従業員の健康を保ち、生産性を上げるためにも大事なポイントとなります。具体的には何ができるのでしょうか。
まずは、実際に通勤コストのシミュレーションをしてみることです。該当物件の位置情報を前提として、まずは全従業員が住んでいる自宅の住所データを利用し、最寄り駅からオフィスまでの所要時間、かかる交通費(定期代など)を検証します。そしてそれをポイント化し、いくつか物件の候補があればその全てに当てはめ比較検証を行います。そしてその中で最適な(従業員の機会費用を最小限に抑え込めるような)オフィス立地を導き出すという作業になります。以上に紹介したような手法は現在、市販のパソコンソフトなどで実際にシミュレーションをしてくれるものがあるので、オフィス移転を検討している経営者は積極的に利用してみましょう。
しかしながら、シミュレーションした結果最適な物件を見つけたとしても、どうしても自宅から遠くなってしまう従業員はいるものです。そんな時には、物件において駐車場が完備されているところを探すのも1つの方法です。電車ではなく車の方が通勤時間的に都合の良い人はいるでしょうから、そうした人向けに車を停めておけるスペースが確保できる物件、さらには周辺の道路環境において渋滞が発生しにくいエリアの物件探しも想定にいれておきましょう。
経営者側の立場に立てば、オフィスを立ち上げる際の物件選びは慎重に行わなければなりません。立地条件が悪いと先ほど挙げたように、従業員に長時間の通勤を強いることになってしまい機会費用が増加し、さらには通勤による目に見えない疲労によって全体的な仕事の効率を落としてしまうことにもつながってしまうのです。それでは具体的にどのような物件の選び方をすれば良いのでしょうか。
近年、インターネットの発達により多くの不動産会社がHPを立ち上げており、パソコン上で気軽に物件を探せるようになりました。細かく条件を付けて検索すれば、最適な物件の候補をいくつかチョイスしてくれる親切設計な作りのところも多いです。そこには最寄り駅からの距離や周辺の施設など、親切に情報が提供されている場合もあります。しかしここで大切になるのは、パソコンの画面上に表示されている全ての情報を決して「鵜呑み」にしない、ということです。もちろんそこに載っている物件情報は大いに参考になるものですが、実際に現地にいってみて初めて分かる情報というものもあります。例えば「駅から歩いて10分」という表示があったとしても、歩幅は人によって違いますし、信号機でちょっとした足止めをされる場合もあります。誤差はわずかなものかもしれませんが、分刻みで動いている従業員にとっては大きな差が生まれてくるかもしれないのです。良い物件を見つけたら実際に現地に赴いて、最寄り駅などから、通勤に時間のかからない立地条件なのかを確かめる必要があるのです。経営者自らが従業員の気持ちになって物件を選ぶようにしましょう。
以上見てきたように、企業が新たに生産拠点であるオフィスの物件を探す時に、従業員がそこに通う通勤の要素は非常に大きな課題となります。生産の良し悪しにも直結すると言えるので、綿密なシミュレーションのもと、通勤コストのかからない最良な条件の物件を選ぶようにしましょう。