新規開業や移転など、新たなオフィスで営利活動をする際、その環境は大いに気になるところではないでしょうか。レイアウトはどのように組んだらいいのか、給湯室や休憩室はあるのか、騒音問題は、などなど。しかしながら多くの人が気づきにくいであろう、オフィス選びのポイントに「天井の高さ」というものがあります。今回は少し特殊と思われるこの要素から最適なオフィス選びを考えていきます。
オフィス選びを検討する際に、なぜ天井の高さという要素が重要なポイントとなっているのか、生物学的側面からまず見ていくことにしましょう。
人間には、精神的な病の一つに「恐怖症」というものがあります。これはある特定の事象に関して、必要以上に心理的な圧迫を感じてめまいや吐き気といった体調不良を訴え、重度になるとパニック障害を引き起こしてしまう症状のことを指します。代表的なものに、鉛筆の芯など、先の尖ったものを自分に対して向けられたり、高い所に登ったりすると発症する「先端恐怖症」や「高所恐怖症」がありますが、「閉所恐怖症」というものもあります。この「閉所恐怖症」は、閉ざされた狭い空間に長い時間閉じ込められると体調を崩してしまう症状のことを指しますが、これと「天井高」は密接な関係にあります。
すなわち、あまりにも天井が低いなど、部屋(オフィス)が狭いような状況に閉塞感を感じるようになり、恐怖症として現出し、様々な体調不良を起こすまではいかなくとも、自然と心理的な圧迫感となって仕事上余計なストレスを抱え込む可能性があるのです。
極端に考えすぎる必要はありませんが、オフィス選びをする際には意外に気づきにくいこの天井高を念頭におきながら検討することが、従業員の生産性の維持、向上につながります。
次に、天井を高くすることのメリットとデメリットを考えていきます。
まずはメリットですが、天井が高いと自然とオフィス全体に開放感を感じ取ることができます。単純にして最大のメリットとかもしれませんが、天井が低いと心理的圧迫が感じられ、従業員の生産性に影響が出てきます。また、天井を高くすることによって空間が広がるので、高級感、リッチな気分を味あわせてくれることにつながりますし、来訪者にとっても好印象となるでしょう。この空間を利用して、天井からシャンデリアなどの豪華な照明器具を吊り下げるのも1つの方法と言えるでしょう。まるで高級ホテルに来たかのような雰囲気を毎日感じられることとなります。また、上部の空間に窓を設置すれば、天井から存分に太陽光を取り入れることができ、オフィス全体にナチュラルな雰囲気を醸し出すことができます。
一方で、デメリットにはどういったものがあるのでしょうか。まず、空間が広がることによって空調機をそれだけ効率的に(よりフル回転で)使用しなければならず、結果的にこの部分でコストが余計にかかる可能性がある、ということです。また、移転前のオフィスで使っていたガラスやサッシといったものが使えなくなるという不便さ、さらには先ほど挙げたようなシャンデリアはコストがかかって購入できない時に、他の照明器具を選別するのは難しい、という問題があります。
さて、実際にオフィスにおいて理想とされる天井の高さはどれくらいになるのか、検証していきましょう。
海外ではかなり上部に天井を作る場合もありますが、日本では日本人の平均身長に合わせた、適度な天井高にしましょう。約2.6メートルくらいが一般的な高さとなりますが、近年では2.7メートル、2.8メートルと徐々に上がっていく傾向があります。また、トイレや洗面台といった、パーソナルなスペースにおいては低めに作られる傾向もあります。
ここで気を付けたいことは、杓子定規に必ずしも2.6メートルくらいが適正な天井高とは言い切れない、という点です。そこには、オフィスの全体的な面積の広さが深くかかわってくるのです。そもそも規模の小さいオフィスであれば2.6メートルくらいでも十分ですが、これが1,000平方メートルを超えたり、ビルのワンフロアをまるごと借り切っているようなオフィスであれば逆に2.6メートルの天井高だと圧迫感を感じる可能性も高くなるのです。この場合は、3メートルくらいまで天井高を上げる必要があると言えるでしょう。さらに、天井には建築構造の都合上、梁があります。これによって天井高はフロアごとに変わってくるので、特に背の高いオフィス家具を置く時などは計算に入れておきましょう。
現代のオフィスデザインにおいて流行の最先端をいっているのが、いわゆる「スケルトン物件」です。海外ではスタンダードなオフィス物件と言っても過言ではなく、日本においてもIT業界などのベンチャー企業が現在積極的に取り入れています。では、スケルトン物件の特徴とは何なのかを検証していきましょう。
スケルトン物件とは、本来オフィス内にあるはずの内装や間仕切りというものが一切なく、建物の躯体のみがある状態の物件となります。後から自由に内装や天井のデザインを決めることができるので、あらかじめ決まっている通常の部屋とは違い、企業の個性をより体現しやすい形になっています。クリエイティブな部分を外部の人間に周知してもらうことで、企業のイメージアップに貢献することが見込まれます。ほぼ「何もない状態」ゆえに、工事費用は普通のオフィス移転より高くなる可能性があり、さらに完成までに時間を要する場合があるものの、天井が高く開放感溢れるオフィスを理想とする場合にはピッタリな物件と言えるでしょう。実際に天井高も3メートル以上となっており、全体的な面積も広くなっているケースが多いので、ストレスを感じることなく快適に、そして効率よく仕事を行うことができます。
以上見てきたように、オフィス物件の条件に置いて天井高というのは意外に見落としやすい部分ですが、心理的に人間(従業員)が閉塞感や圧迫感、そしてストレスを感じずに仕事をする上で大切な要素と言えます。オフィスの全体的な広さを考慮に入れつつ、適当な高さの天井を持つ物件を探してみましょう。