情報化社会が進んでいる現代、企業には個人情報の漏えいを防ぐという重大な使命があります。漏えいにより企業の社会的責任が地に堕ちてしまう、という現象も近頃は珍しくなくなりました。コンプライアンスを遵守するために、従業員1人1人がしなければならないことは「機密書類」を適切に扱うことでしょう。情報漏えいをしないために最も適切であるとも言える、機密書類の扱い方にはどういった方法があるのか検証していきます。
1990年代後半から2000年代にかけて、インターネットが急速に普及したことにより社会の情報化は一気に進んでいき、IT企業などの新たな業種の誕生を促しました。しかしそれは同時に、新たな問題が発生する土壌にもなりました。パソコンを通して情報を手に入れやすくなるにつれ、本来知られてはならない機密情報まで無差別に、容易に手に入るようになってしまったのです。これを防止する一環として日本では2003年「個人情報保護法案」が成立、2005年に全面的な施行がなされました。個人情報を扱う企業に厳しい義務を課し、違反した場合には罰則(刑事罰)が定められたのです。
この法案が改めて広く認識された「事件」として有名なのが、2014年に起きたベネッセ個人情報流出事件です。通信教育界の最大手である同社は、進研ゼミなどに登録している子供や保護者などの顧客情報流出を発表し、その数は最大2000万件以上(結果的に3000万件)にものぼることが明らかとなりました。情報が漏えいした原因は、同社で働いていた派遣社員のエンジニアによるデータの外部持ち出し、名簿業者への売却でしたが、この事件は改めて機密情報を守ることの重要性を広く社会に再認識させるに至ったのです。従業員1人1人がなすべきことは何か、機密情報を守るために企業としての具体的な方策が求められたのです。
そもそも機密書類というものは一体何なのか、その種類、定義を考えていきましょう。
まずは先ほども挙げたように、顧客情報(氏名、住所や電話番号)があります。お客様から個人の情報を提供してもらう(守秘義務を守る)、という前提があるので漏えいさせてしまったらお客様への「裏切り」につながり、社会的信用を失ってしまうリスクが大きいです。また、個人情報を国が一律管理する「マイナンバー制度」も近年スタートし、個人情報を保護する必要性が益々高まってきています。
機密書類は個人情報だけでなく、社内で発生するもの、クライアントとの取引の上で発生するものもあります。具体的には契約書、見積り書、製品を管理するマニュアル、図面、未発表の情報など多岐に渡ります。企業が利益活動を行う際の、まさにトップシークレットとも呼ばれるべきものであり、これらを漏えいさせることはすなわち(特にライバル企業の手に渡った時は)、自企業の存亡に関わる事態になるといっても過言ではありません。何重にもセキュリティを施すことで、決して漏えいすることのないよう、従業員1人1人が普段から高い意識を持ち続けながら機密書類を扱う必要性があります。
普段の業務において機密書類を漏えいさせてしまう危険性は常に潜んでいますが、オフィスを移転する時にはより注意が必要となります。引越しのドサクサにまぎれて紛失してしまい、外部に情報が漏れてしまう可能性もゼロとは言い切れません。あらかじめ手元でしっかり管理するようにしましょう。
さて、機密書類はオフィス移転の際に整理整頓する必要があります。その際、引き続き保管しておく必要があるものと、期限が過ぎるなど何らかの理由で破棄が必要となってくるものに大別することができます。それぞれにおいて、どのような扱い方が必要なのでしょうか。
まず保存しておく機密書類の方ですが、担当者が各自の責任において、しっかりとダンボールに詰め込んでおくことがポイントとなります。そして新オフィスに持っていく際には、鍵のかかる部屋に置いておくようにしましょう。機密性の低い書類と同じ場所に置いてしまうと雑に扱ってしまいがちです。捨てられる危険性もあるので管理には注意しましょう。
一方、保存の必要がなくなった書類に関しては外部の目に触れる前に処分しなければなりません。処分方法をあらかじめ用意しておきましょう。一番効果的なのはシュレッダーです。専用機をあらかじめ購入しておけば必要以上のコストがかかりません。確実性が高いのは、専門業者に頼んで溶解処理で処分してもらう、という方法になります。どのような手段を取るにしても、情報漏えいしないように気を付けましょう。
「機密書類」と聞くと紙のイメージが強いですが、実はパソコンなどに保存されたデータも同様の定義づけができます。オフィス内でパソコンを扱って作業をするということがもはや当たり前になった現在、データの扱いに関しても細心の注意を払わねばなりません。万が一データが消えてしまったら、取り返しのつかない事態になりえますし、廃棄したはずのパソコンから第三者がデータを復元する可能性もあるのです。
オフィス移転時には特に注意が必要で、パソコンの持ち運び方が重要です。業者に依頼するケースも多いパソコンの持ち運びですが、ぞんざいな扱いをされて万が一破損してしまった場合に備えて、重要なデータはパソコンから可能な限り取り出し、外部記憶装置であるUSBなどに保存して持ち運ぶようにしましょう。USBは小さいものなので、それを紛失しないようにするのももちろん大切です。
そして、移転を機に不要なパソコンを廃棄する場合はより注意が必要です。廃棄の際、保存データをしっかり消去していたはずでも、ハードディスクという単位で残存している可能性が高いのです。物理的に壊したとしてもデータが残る可能性は高いので、専門業者に依頼する、もしくは専用のソフトを購入するなどして、しっかりとデータを消去するのがベストといえます。
以上見てきたように、情報化の進む現代において機密書類を慎重に扱うことは、今や企業が達成すべき重要なミッションとなっています。紙の書類だけでなく、パソコン上のデータも外部に漏らさないようにすることではじめてコンプライアンスを遵守している、と言えるでしょう。