オフィスの移転担当者に任命された場合、最優先で着手すべき仕事は「スケジュール作成」です。オフィス移転に必要な項目は多岐に渡り、そのどれもがおろそかにできないものばかり。しかも前後関係を間違うと、移転業務の全体がストップしてしまうおそれもあります。オフィス移転担当者として任命されたその日から、待ったなしの全力疾走が始まります。そんな重責を担う方の参考にしていただきたい「移転スケジュール作成のコツ」を説明します。
オフィス移転のスケジュール作成において最大のコツは「可能な限り情報を集める」ということです。オフィスの移転はそう何度も体験することではありません。特に初めての移転となれば、ノウハウの蓄積はゼロ。そこで移転担当者がまず着手するのは情報収集です。
ネット検索でもある程度必要な情報は集まります。しかし、オフィス移転は「失敗したからやり直そう」がきかない業務です。オフィス移転管理業者などの専門家に相談し、自社のオフィス移転にとって必要となる情報の取捨選択を適切に行うことが求められます。
小さな個人企業ならともかく、ワンフロアに数百名の社員が集まるような大きなオフィスの場合、発生する作業の質量は膨大です。総務部を中心とする自前のスタッフだけで無事に乗り切れるか不安もあることでしょう。そのようなときは、いっそのことスケジューリングを含めた移転管理のすべてをプロに任せてしまうのも賢明な選択でしょう。
では、移転管理をプロにゆだねる場合、移転担当社員のすべき仕事は何でしょうか?それは「意見の集約」につきます。
法的な手続きや現場作業の完了まで、実務的な仕事は移転管理業者がワンストップで行ってくれるので心配は不要です。しかし、「こういうオフィスにしたい」といった現場の生の声については、自社スタッフのほうが容易に集められるのです。
特にオフィスレイアウトの問題は、社員の作業効率に直結しますから、各部署と何度も意見交換し、必要十分な環境を実現させたいもの。具体的な移転スケジュールの作成は、まず意見集約の時間を確保することから始めましょう。
オフィス移転業務のアウトラインは概ね次のとおりです。
・物件の選定
・移転業者の選定
・新オフィスの設計、レイアウト
・内装工事
・設備工事(電気、ガス、水回りなど)
・引越し作業(現状回復含む)
・新オフィスの構築(什器類、パソコン・LANなど情報機器の配備など)
このようにオフィス移転は質・量ともに大変な業務です。また「どんなオフィスに引っ越せるのかな?!」とワクワクする気持ちも手伝って、どうしても先々のことに目を奪われがちですよね。気持ちはわかりますが、スケジュール作成にあたっては、まず「チームの組織」から着手するのが正解です。
オフィス移転は一般的には総務の管轄です。しかしオフィスの規模が大きな企業の場合、移転に伴うリスクも増えることから、移転業務に専念するチームを組織する例もあります。
移転チームに参加する社員は、情報機器の移設や法律上の手続に詳しいことが望ましいでしょう。また、多様な意見をまとめられるリーダーの配置も必要です。たとえば、デザインオフィスの移転であれば、オフィスレイアウトについてもさまざまな意見が出るでしょうから、複数のデザイン案をまとめあげる経験豊富なチームリーダーの存在が欠かせません。
なお、移転チームを組織せず、移転管理業者にワンストップで任せる場合でも、総務部社員のなかから業者との窓口係を決めておくことは必要です。
以上のとおり、移転チームを組織するか否かにかかわらず、自社スタッフの誰を移転業務に関与させるか、その決定期間もスケジュールに組み込んでおく必要があります。
現在のオフィスを開設したとき、どのような賃貸借契約を締結したのか、この確認は移転スケジュール作成にとっても重要です。ポイントは「解約予告期間」「原状回復」「敷金・保証金の扱い」です。
(解約予告期間)
賃借しているオフィスを退去する場合、必ず一定期間を設けた事前の解約予告が必要です。これは、退去期間を設けることで、オーナーが次の賃借人を選定できるようにするのが目的です。万が一、契約で定めた解約予告期間では長すぎて待てないという場合は、オーナーに事情を話して予告期間前の解約を認めてもらう必要があります。
(原状回復)
原状回復を行うには、事前に業者の見積りを取り、その後工期を設定することになります。業者の都合次第では、原状回復工事がずれ込むこともありえるので、業者への発注は早めに行うことが大切です。
(敷金・保証金の扱い)
敷金・保証金の扱いは、移転スケジュールに直接影響を与える項目ではありません。ただ、返還する金額の範囲でトラブルになる場合があり、話し合いで解決できないと裁判沙汰になることもめずらしくありません。新しいオフィスで気持ちよく仕事を始めるためにも、法務部だけでなく不動産問題に詳しい弁護士の助力を求めることも必要でしょう。
オフィスの規模によって「移転の最短スケジュール」はもちろん異なります。ですが「オフィス移転をすばやく行うためのコツ」は共通です。それは「できるだけ早く、適切に物件選定を行う」ということです。物件選定から始めるのであれば何よりも「スピード」が命です。優良物件はすぐに埋まります。集める情報の鮮度に注意しながら、あまり手を広げることなく、期限を切って決めてしまうのがコツです。
とはいえ、いざ物件を選ぶとなると、どうしても時間がかかってしまうのも事実。新しい職場に対する希望は際限なく広がる一方、予算などの制約もあります。「迷いに迷って決めた物件が、結局最初に紹介された部屋だった……」誰もがそんな経験をしていることでしょう。オフィスの移転となれば、「迷い」はさらに増えます。しかも新オフィスで展開する業務次第では、旧オフィスになかった設備が必要となることもあります。「拙速な判断は避けつつ、速やかに決定する」という高度な判断がオフィス移転には必要です。
一般に物件選定のために要する期間は、移転スケジュール全体の2分の1と考えておくと良いでしょう。たとえば、もし2ヶ月で移転を完成させるなら、前半の1カ月を物件選定にあてます。ただし、「1カ月もあるから、じっくり選びたい!」とばかりに、ゼロから情報収集をするのは間違いです。「新オフィスの広さやレイアウトなど大まかなイメージをもつ」そして「移転先の候補地を絞る」という2点については、「プレ・移転スケジュール」に組み込み、本格的な移転スケジュールを実行する前に終えておくことが必要です。
物件選定をスムーズに行うためのコツは2つあります。
・内覧はできるだけ短期間に一気に行う
・「もっといい物件があるはず」という希望は捨てる。
内覧はオフィスのスケール感を正確に把握し、新しい職場のイメージを確立するためにも欠かせません。しかし、だからといって、あれもこれもと好みの物件をリストアップし、何件も内覧する……というのはいただけません。
内覧の結果、気に入った物件があれば「仮押さえ金」を支払うことで確保できます。仮押さえ金によって物件を確保できる期間が業者によって異なりますが、契約が成立しなければ全額戻ってきますから心配は無用です。
あれもこれもと内覧することの最大の問題は、「仮押さえ金を支払うとその物件への愛着が生まれてしまい、他の物件を内覧したときに冷静な比較判断ができなくなるおそれがある」ということなのです。
「できれば他の企業にこの物件を取られたくない。かといって、即決はできないから、せめて他の物件をチェックする間はこの物件を自分のものにしておきたい」
これが仮押さえ金を支払うときの心理です。
気持ちはわかりますが、仮押さえ金をどんどん支払い、選択肢を増やしたところで、最終的には1つに絞ることになるわけです。
そうであるなら、仮押さえ金を支払って冷静な判断力を鈍らせるよりも、短期間で一気に内覧を済ませ、「内覧のスケジュールをあと1週間伸ばせば、もっといい物件が見つかるかも……」といった無駄な希望は捨てることです。物件選定をスムーズに行うには、この「潔さ」が欠かせないといえるでしょう。スケジュールを作成する際は、物件選定の期限を明確にし、関係者全員に厳守させることが肝心です。
オフィス移転は、手続も作業内容も、単なる引越しとはスケールがまるで違います。だからこそ、期限を明確に定めて、不要な作業を増やさないことが肝心です。延移転担当者の仕事は「スケジュールを作成して終わり」ではありません。不測の事態にも対処しつつ、予定通りスケジュールを遂行することが求められています。