オフィスのデザインは企業の数だけあります。しかし、時代や国や職業によって流行り廃りがあるのも事実です。
ノートパソコンが一台あれば仕事を遂行できるIT企業にとっては、「オフィスのデザインはこうでなければならない」といった固定観念がないためか、とても自由なデザインのオフィスを構えている例も多いようです。
この記事では、多様化するオフィスデザインのトレンドについて「自由」「コミュニケーション」「集中」「ストレスオフ」という4つの視点からまとめました。
従来のオフィスは「堅実」「固定」「序列」といった表現がしっくりくるデザインが多かったように思います。そういった画一的なオフィスは設計施工が容易であるため、オフィスデザインへの意識があまり広まっていなかった「昭和のオフィス」の定番でした。
しかし時代が平成を迎えるとともに働き方が多様化すると、オフィスデザインについても柔軟に考える経営者が増えていきました。それにともないオフィスデザインの自由度が上がり、大都市圏のオフィスを中心に独創的なデザインが採用されるようになったのです。
その象徴が日本生まれのオフィスレイアウト「フリーアドレス」です。フリーアドレスは、従来のオフィスのように「一人の社員に一つのデスク」という観念を捨てるところから始まっています。
通常、デスクには引き出しがあり、そこには社員個人の私物なども収納されています。しかしそれらの多くはちょっとした文房具やファイル、家族の写真やお菓子など、仕事にどうしても必要なものではありません。
それならば、特定のデスクを特定の社員にあてがう理由もありません。ネット環境さえ整っていればどのデスクでも仕事はできるはずだからです。
同様に管理職や経営者のデスクも「この場所でなければ仕事にならない」というものではありません。そのため社員の職位や序列で執務スペースを区分しない「オープンフロア」を採用する企業が急増しています。
なお、建築デザインオフィスのように、「このデザイン・設計は誰が担当しているか」という仕事の分担が厳しく決められている職場では、各スタッフの専用デスクとパソコンがなければ仕事になりません。当然フリーアドレスは導入できないので注意が必要です。
またオープンフロアも、人によっては「周囲の環境(他人の動きや視線や音など)が気になって集中できず、生産性が上がらない」「プライバシーが保たれない」といった不満を抱く場合もあるので、導入の際は事前に社員の意向を調査するべきでしょう。
「オフィスとは?」という問いに対してはいくつかの答えがありますが、「同じ組織に属するスタッフが、互いに協力し合い一つのビジネスを実践するために集まる空間」と定義できるでしょう。オフィスでは自分に課せられた職務はもちろんですが、何よりも仲間とともに協力して仕事を完遂することを目的とする場所だといえます。
したがってオフィスではコミュニケーションを密にすることが非常に重要となります。仕事上の問題を解決するためのディスカッションはもちろん、休憩中のちょっとした時間に日ごろの悩みを打ち明けたり、雑談に興じたり……。そんな時間こそが、社員同士の連帯感を高め、仕事へのモチベーションを上げてくれるのです。
このようにオフィスにおけるコミュニケーションの大切さが広く認知されるようになると、それまでは効率一辺倒だったオフィスデザインにもコミュニケーションを促進するための仕掛けが盛り込まれるようになりました。オフィス内のカフェやバーなどはその典型です。
職場でお酒を酌み交わすという文化は日本ではまだ根付いているとはいえませんが、IT企業などでは最先端のオフィスデザインを実践するシリコンバレーのトレンドを気にしているのか、オフィス内にカフェやバーを積極的に設ける企業が増えているようです。
業務時間の大半は集中する時間に割り当てられるものですが、社員もひとりの人間であり、仕事のペースもさまざま。中には「一人にならないと集中できない。普段は他の同僚が大勢いるなかで仕事をしているけれど、本当に深く考えたい作業をするときはできれば一人だけで仕事に打ち込みたい……」という人もいます。
こういった社員のニーズをくみ上げてオフィスデザインに反映させる例が増えています。その典型が「ファミレスブース」です。これはファミリーレストランのボックス席のような執務スペースで、一人作業や少人数でのミーティングなどに使えるようにデザインされています。
なかにはパソコンを備え付けた一人用デスクを並べたコーナーを作り、ちょっとした作業やリサーチ用として自由に使えるようにするなど、ファミレスブースをさらに発展させたデザインもあります。
マグネットスペースの「リラックス効果」にファミレスブースによる集中効果と組み合わせたオフィスは理想のオフィスといえます。社員は自分のコンディションに応じて「集中とリラックス」を使い分けることが可能となるからです。
人間の集中力には限界があります。精密な作業を求められる仕事では、適度にリラックスできる時間をはさむことで、集中の精度を上げることができます。ファミレスブースやマグネットブースに象徴される「集中とリラックスのための設備」は、これからのオフィスデザインの主役になるはずです。
仕事にストレスはつきもの。「オフィスで貯めたストレスは自宅でゆっくり風呂につかって解消……」といいたいところですが、それはちょっと時代遅れの考え方。「いかにストレスを貯めないオフィスにするか」が現代のオフィスデザインのトレンドなのです。
人間は狭小空間に長時間閉じ込められると強いストレスを受けるといわれています。また一昔前までは「かっこいいオフィスデザイン」の象徴としてもてはやされた「コンクリート打ちっぱなし」も、無機質でクールすぎる印象のためか、最近では好んで選ばれることが少なくなっているようです。
一口に「ストレスを貯めないオフィスデザイン」といってもさまざまですが、上記したような「狭小」「無機質」とは対照的なデザインであると考えればよいでしょう。
たとえば床から天井までの高さがあまりないビルであれば、思い切って天井をぶち抜き、スケルトン状態にしてしまうのも一つの方法です。景色の良い場所にあるオフィスなら壁を全面ガラス張りにして日光がたっぷり入るデザインも人気です。 室内に人工的なグリーンをたくさん配置したり(時には本物の木を植えることも)、目に優しい色彩で室内をカラーリングしたり、ハンモックなどを据え付けて休憩時間にぶらぶら揺られながら仮眠を取ったりすることも流行しています。
ストレスマネジメントは企業にとって大切な課題とされています。オフィスデザインの工夫も有効な方法だといえるでしょう。
オフィスデザインのトレンドを一言で表すなら「自由度の向上」です。保守的で変化を好まない経営者や企業は次第に少なくなり、その影響がオフィスデザインの自由度にも表れているのです。本文で説明したように、オフィスデザイン次第で社員の仕事ぶりにも変化が期待できます。経営者の皆さんはぜひ人間工学的見地からオフィスデザインを見直してみてはいかがでしょうか?