企業の経営において、「固定費の削減」は利益を最大化させるための重要な施策です。しかし、無理に削減を進めると業務の効率や従業員のモチベーションに悪影響を与えかねないため、慎重なアプローチが欠かせません。
今回は、固定費削減の方法とメリット、削減時の注意点について解説します。固定費削減の方法で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
固定費とは、売上や生産量に関係なく、一定期間において固定的に発生する費用のことです。例えば、オフィスや工場の賃料、水道光熱費、通信料などが該当します。変動費とは、売上や生産量の変動に応じて変化する費用のことです。原材料費や外注費などが該当します。
一般的には変動費よりも固定費のほうが削減しやすく、コストカット効果も高いとされています。そのため、コスト削減を考えている場合は固定費を優先して削減するのがセオリーです。下記では、固定費を削減するメリットを3つ紹介します。
固定費を削減することで、売上の中から得られる利益の割合(利益率)を高められます。固定費は売上に関係なく毎月発生する経費です。そのため、同じ売上を維持しながら固定費を削減すると、全体のコストが減少し、結果として利益が増えます。
下記は、固定費を「削減する前」と「削減した後」を比較した例です。
【固定費を削減する前】
売上 | 1,000万円 |
変動費 | 300万円 |
固定費 | 500万円 |
利益 | 売上1,000万円 – 変動費300万円 – 固定費500万円 = 200万円 |
利益率 | 利益200万円 ÷ 売上1,000万円 = 20% |
【固定費を100万円削減した場合】
売上 | 1,000万円(変わらず) |
変動費 | 300万円(変わらず) |
固定費 | 400万円(100万円削減) |
利益 | 売上1,000万円 – 変動費300万円 – 固定費400万円 = 300万円 |
利益率 | 利益300万円 ÷ 売上1,000万円 = 30% |
削減した固定費は毎月の経費から減るため、長期的にみると大きなコスト削減効果が得られます。特に、長期間にわたって事業を運営する場合、削減した固定費が蓄積されて企業全体の財務状況を改善します。下記は、継続的な経費削減効果の例です。
【オフィス移転による賃料削減】
現状のオフィス賃料 | 月50万円 |
移転後のオフィス賃料 | 月40万円(10万円削減) |
年間削減額 | 月10万円 × 12か月 = 120万円 |
5年間の削減効果 | 年120万円 × 5年 = 600万円 |
【業務システムの見直し】
現状のシステム利用料 | 月30万円 |
効率化後のシステム利用料 | 月20万円(10万円削減) |
年間削減額 | 月10万円 × 12か月 = 120万円 |
3年間の削減効果 | 年120万円 × 3年 = 360万円 |
固定費を削減することで、事業に必要な現金の流出が減少し、手元に残るお金(キャッシュフロー)が増加するというメリットがあります。キャッシュフローは、企業の運営や投資、借入金の返済のために欠かせない資金です。固定費は売上に関係なく毎月支出されるため、これを削減することで支出が減り、事業運営の自由度が高まります。
キャッシュフローが増えると、急な支出や景気変動にも柔軟に対応できるようになります。また、増加したキャッシュフローを活用し、新規事業や設備投資に資金を回すことも可能です。
下記では、企業が実践できる固定費削減の具体的な方法を5つピックアップして紹介します。企業の経営状況を踏まえつつ、実践してみてください。
オフィス賃料は、固定費の中でも大きな割合を占める項目です。近年、テレワークの普及にともない、企業のオフィスの在り方が大きく見直されています。例えば、従来の「都心部で駅近」という好立地へのこだわりを見直し、コストパフォーマンスの良い郊外のオフィスへの移転を検討する企業も少なくありません。
また、テレワークを導入することで社員がオフィスに常駐する必要がなくなり、オフィスの規模を縮小する動きも活発化しています。オフィス規模を縮小すれば、賃料だけでなく光熱費や維持費も削減可能です。
オフィス賃料の見直しをお考えの方は、「MACオフィス」へご相談ください。MACオフィスでは、現オフィスの環境や経営課題に基づき、ダウンサイジング移転、改装・レイアウト変更、シェアオフィス活用に至るまで、お客さまに最適な方法をご提案いたします。
さらに、不動産仲介交渉や工事区分交渉に関する豊富な知見を活かし、月額賃料の最小化、フリーレント期間の最大化などのサポートも対応いたします。
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オフィス移転に関して詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
「オフィス移転を検討している方必見|移転の流れや費用、成功事例まで徹底解説 」
毎月発生する光熱費は、一見すると小さな支出に思えますが、積み重なると大きなコストになります。光熱費の削減方法として代表的なのは、「電力会社の切り替え」です。2016年の電力自由化により、多くの企業が電力市場に新規参入しました。これにより、従来の大手電力会社だけでなく、コストパフォーマンスに優れた選択肢が増えています。
新しい電力会社は、大手と同品質の電力供給を維持しながらも、料金を抑えているケースが多いため、契約先を見直すことで電力コストを大幅に削減できます。見積もりを比較し、自社の電力使用量に合ったプランを選ぶと良いでしょう。
また、従来の蛍光灯や白熱電球をLED照明に変更したり、古い電化製品をエネルギー効率の高い最新型に買い替えたりするのも固定費を削減する方法として有効です。初期投資は必要ですが、長期的には大きなコスト削減につながります。
社用車を保有・運用する際には、購入費用だけでなく、ガソリン代、駐車場代、固定資産税、自動車税、メンテナンス費用、車検代など、多くのコストが発生します。これらは固定費として毎年企業の負担となるため、車両費を見直すことで大幅な固定費削減が期待できます。
車両費を見直す方法としては、「カーシェアリングサービスの活用」が有効です。特に社用車を頻繁に使わない場合は、カーシェアリングサービスを利用することでコストを削減できます。他にも、ガソリン車をハイブリッドカーや電気自動車(EV)に置き換え、燃料費やメンテナンスコストを削減するのも手です。
広告宣伝費は、商品やサービスの認知向上や販売促進に欠かせない経費のひとつです。とはいえ、効果が不明確なまま出稿を続けると、固定費の無駄遣いにつながるおそれがあります。広告宣伝費をきちんと見直すことで、コストを削減しながら売上の最大化を図ることが可能です。
具体的には、「効果が薄い媒体への支出をカットする」「広告の頻度やタイミングを調整する」「効果測定が容易なインターネット広告を活用する」などがあげられます。
ペーパーレス化は、紙を使った業務をデジタル化し、固定費の削減と業務効率化を同時に実現する取り組みです。特に、印刷や保管、郵送にかかるコストを削減できるため、多くの企業にとって重要な施策といえます。
ペーパーレス化によって削減できるコストには、下記があげられます。
・印刷関連費用:印刷用紙やインクカートリッジ、プリンター本体の購入や保守費用など、紙の使用にともなうランニングコストを削減
・保管スペースの賃料:膨大な紙の書類を保管するためのスペースが不要になり、オフィス賃料や倉庫代が軽減
・郵送費:紙の請求書や契約書を送るための封筒、切手代、郵送作業にかかる人件費も削減可能
ペーパーレス化の具体的な方法としては、「紙でやり取りしている業務を専用システムに移行し、紙を使わない環境を構築する」「会議や打ち合わせで使用する資料を、印刷ではなくデータ共有する形に変更する」などがあげられます。ただし、システム導入など初期コストが発生する点には注意が必要です。
ここでは、固定費削減時の注意点を3つ紹介します。
固定費削減の方法はいくつかありますが、既存の仕組みや業務環境を大きく変える場合、従業員の理解と協力を得ることが重要です。従業員のモチベーションや業務環境に与える影響を考慮せずに進めてしまうと、逆に生産性が低下したり、従業員の離職を招いたりするリスクがあります。
例えば、福利厚生の削減やオフィスの規模縮小など、直接的に従業員に影響を与える措置を取る場合は、事前に導入ガイダンスを実施しましょう。変更の理由や目的を明確に伝えることで、不安を和らげられます。
また、新しい仕組みが導入された際には、アフターフォローを欠かさず、不満や改善点をしっかりと聞き取ることも大切です。
固定費削減を無理に推し進めると、サービスや製品の品質が低下することがあります。例えば、経費削減の一環として、必要なスタッフを削減すると、業務が回らなくなり、サービスの質に支障をきたすでしょう。その結果、お客様が不満を感じ、最終的には企業のブランドや評判に悪影響を与えかねません。
コスト削減の目的が先行しすぎると、その過程で本来の事業価値や目的を見失うことがあります。施策を実行する際は、事業における価値基準をしっかりと定義し、削減可能な部分と削減すべきでない部分を見極めた上で慎重に進めることが大切です。
固定費は企業の事業運営や品質維持に深く関わるため、単純に削減することは難しく、長期的な視点が必要です。例えば、賃料や人件費、契約の途中で解約ができないサービスなど、短期間で削減できるものが限られているため、すぐに効果が出るわけではありません。会社全体で目的と目標を共有し、現場の理解と協力を得ながら、長期的に取り組みましょう。
固定費を削減することで、売上が一定でも利益を増やせたり、キャッシュフローが増加したりと、多くのメリットが得られます。優先的に削減を検討したい固定費は、オフィス賃料をはじめ、光熱費、広告宣伝費などです。固定費を削減する際は、従業員のモチベーションや業務環境に与える影響を考慮し、慎重に進めましょう。