企業が運営するさまざまな事業を効果的に管理し、成長を促進するためのツールが「事業ポートフォリオ」です。事業ポートフォリオを最適化することで、リスクの分散や資源の効率的な配分が可能となり、企業全体の競争力を高められます。
今回は、事業ポートフォリオとは何かから始まり、メリット、作成方法、最適化のためのポイントを紹介します。
事業ポートフォリオとは、企業が展開しているすべての事業を、ひとつの枠組みの中で整理・可視化したものです。事業ポートフォリオを作成すると、企業が運営している事業の収益性や成長性を一目で確認できるようになります。「どの事業が最も利益を生み出しているのか」「どの事業が今後成長する可能性が高いのか」を把握したい場合に有効です。
また、事業ポートフォリオを活用することで、限られた経営資源(資金、人的資源、時間など)をどの事業に優先的に投入するべきかを効率的に判断できます。例えば、「高収益で成長性が高い事業に資源を集中させる」「成長が鈍化した事業の撤退を検討する」などの意思決定がしやすくなります。
事業ポートフォリオを作成することで、下記のメリットが得られます。
事業ポートフォリオを作成・活用することで、企業の経営陣は迅速かつ的確な意思決定が可能になります。具体的には、収益性、成長性、競争優位性など、意思決定に必要な指標を瞬時に把握可能です。
意思決定に必要な情報が整理されているため、経営陣が詳細なデータ分析や議論に時間を費やす必要が減ります。
事業ポートフォリオは、自社の全事業を体系的に整理し、成長性や収益性などの観点から現状を明確にします。そのため、市場環境や顧客ニーズの変化を迅速に察知し、それに対応した業務改善策を講じることが可能です。
また、成長が鈍化している事業を縮小または撤退し、成長性の高い事業にリソースを集中させるといった再編成も適切に進められます。
他にも、自社事業にとって相乗効果の高い技術やサービス、展示会・イベントなど、トレンドに敏感に対応する体制を整えられるようになり、新たなビジネスチャンスを逃しにくくなります。
事業ポートフォリオを活用することで、各事業の売上高や収益性といった財務データが整理され、全体像が明らかになります。そして、高い利益を上げている事業がどれかを明確にし、さらなる成長を目指した投資判断が可能です。
また、財務負担が大きい事業を特定し、改善策を講じたり撤退を検討したりする機会も得られます。
事業ポートフォリオを作成・活用することで、自社の事業全体を俯瞰し、それぞれの強みや弱みを明確に把握できます。これにより、自社が得意とする領域や課題が浮き彫りになり、競合他社との比較がしやすくなります。
さらに、各事業が直面する競争環境や市場におけるポジションが明らかになるため、競争相手の特定や、優位性を築くための戦略立案が可能です。
下記で、事業ポートフォリオの作成方法を4つのステップに分けて解説します。
事業ポートフォリオを作成する最初のステップは、自社の現状を正確に把握することです。その際に有効な手法としてPPM(Product Portfolio Management)分析があります。PPM分析では、自社事業を「市場成長率」と「市場占有率」の2軸で評価し、下記の4つの象限に分類します。
高
↑ 市 場 成 長 率 ↓ 低 |
問題児
(高成長だが占有率が低く、将来性は不明。投資が必要) |
花形
(高成長で占有率も高い、投資によってさらなる成長が期待できる) |
負け犬
(成長も占有率も低く、収益性が低い) |
金のなる木
(成長率は低いが占有率が高く、安定した収益源となる) |
|
低 ←市場占有率→ 高 |
PPM分析で各事業の現状を把握した後は、自社が注力すべき「主力事業」を選定しましょう。この際、CFT分析(Customer, Function, Technology)を活用するのが有効です。
要素 | 内容 | 評価のポイント |
Customer(顧客) | その事業がターゲットとする顧客層や市場規模 | 顧客ニーズの強さ、成長性、競合状況の優位性 |
Function(機能) | 事業が提供する製品やサービスの機能が顧客の課題解決にどれだけ貢献するか | 提供価値の独自性、顧客への具体的な利便性やメリット |
Technology(技術) | 事業を支える技術力やイノベーションの競争力 | 自社技術の優位性、模倣されにくい強み、今後の発展可能性 |
CFT分析により、「誰に」「何を」「どうやって提供するか」が明確になります。
注力すべき主力事業を決定した後は、自社のコア・コンピタンス(他社にない競争優位性)を明確化します。この際、SWOT分析を活用するのが有効です。SWOT分析は下記の4つの視点から、自社の現状と外部環境を整理します。
要素 | 内容 | 分析のポイント |
Strength(強み) | 自社が他社に比べて優れている点や競争力の源泉 | 技術力、ブランド、顧客基盤、コスト効率など |
Weakness(弱み) | 自社が克服すべき課題や他社に劣る点 | 人材不足、資金力の欠如、技術力の遅れなど |
Opportunity(機会) | 市場の拡大やトレンドなど、自社にとって有利に働く外部要因 | 新しい市場の出現、規制緩和、技術革新など |
Threat(脅威) | 競合や市場縮小など、自社に不利な影響を及ぼす外部要因 | 新規参入者の増加、価格競争、規制の強化など |
SWOT分析を通じて、主力事業における自社の強みを最大限活用し、弱みを補う戦略が立案できます。また、外部の機会を捉え、脅威への対応策を講じることで、競争優位性をさらに強化できます。
事業ポートフォリオ作成の最終ステップは、自社の強みや主力事業に適したビジネスモデルの決定です。ビジネスモデルとは、どのようにして価値を創造し、顧客に提供し、収益を得るかを定義するものです。
ビジネスモデルを決める際には、企業理念に基づいているかを確認することが重要です。ビジネスモデルが目先の利益に焦点を当てすぎている場合、企業イメージの低下や顧客離れ、さらには従業員のモチベーション低下を招くおそれがあります。
下記で、事業ポートフォリオを最適化するための主なポイントを紹介します。
事業ポートフォリオを最適化するためには、経営リソースを効率的に配分するだけでなく、優先的に投資すべき事業を決めることが重要です。限られたリソースを最大限に活用するためには、成長性や収益性の高い事業を選択し、リソースを集中的に投入する必要があります。
事業ポートフォリオを最適化する際には、目先の損益だけでなく、資本効率を重視することが大切です。資本効率を評価する代表的な指標には、ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)があります。
・ROE=当期純利益÷自己資本×100
・ROIC=税引後営業利益÷投下資本(株主資本+有利子負債)×100
事業再編や事業撤退が遅れると、競争力のない事業が損失を拡大し続けるおそれがあります。「撤退すべき事業」「再編が必要な事業」を早期に見極め、リソースを有望な事業に集中させることで、効率的な運営につながります。
事業ポートフォリオを作成・分析した後は、経営陣がその結果を意思決定に活かす必要があります。適切なガバナンス体制が整っている企業は、組織内の意思決定フローや業務内容が明確になり、効率的に事業が進行します。
市場や消費者のニーズは常に変化しているため、それに合わせて事業ポートフォリオをアップデートすることが重要です。市場や消費者ニーズを定期的に分析・評価することで、成長可能な事業や市場環境の変化を迅速に反映させられます。
ジェイ・フェニックス・リサーチとMACオフィスは、企業価値の持続的向上を目指す新時代の経営手法を開発し、展開しています。これは、社員一人ひとりがどのように株主価値に貢献しているかを可視化できるフレームワークです。事業ごとの投下資本や社員(人的資本)を事業別に分類し、各事業で行われる業務を一覧化できます。
詳細は、下記のニュースページをご覧ください。
「ジェイ・フェニックス・リサーチとMACオフィスが企業価値の持続的向上を実現する新時代の経営手法を開発・展開」
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事業ポートフォリオとは、企業が運営しているすべての事業を一覧化したツールのことです。事業ポートフォリオを作成することで、各事業の成長性や安全性、収益性などを可視化・分析でき、意思決定や財務体質の改善に役立てられます。企業の持続的な成長のためにも、適切な作成手順とポイントを押さえ、事業ポートフォリオを活用してみてください。